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渋谷区名誉区民の井上順さんに聞く、大人の粋な夜の歩き方

渋谷生まれ渋谷育ち。渋谷区名誉区民でもある井上順さん(75歳)は、今宵も颯爽と渋谷の街に現れた。いくつもの夜の街で鳴らした大人の男の、粋な夜の歩き方とは。井上さん、今日は渋谷のどちらへ?

photo: Yayoi Arimoto / text: Chisa Nishinoiri

まずは渋谷横丁で、
ビール一杯から♪

そうだねぇ、まず、渋谷の街はいつの時代も刺激とエネルギーをくれるけど、特に今、目まぐるしく変わりゆく渋谷の街は、とにかく僕をワクワクさせてくれます。言わずと知れた渋谷屈指の繁華街・百軒店。昭和1桁代から続くジャズ喫茶やお好み焼き屋が店を構える路地の並びに、クラフトビール屋やおしゃれなレストラン、カフェが次々にオープンしている。

新しいカルチャーと昔ながらの老舗が隣り合う、ユニークなエリアとして進化を遂げつつある。渋谷で飲み歩く酒飲みたちに愛され続ける、線路脇ののんべい横丁。昭和レトロな雰囲気満載の横丁の先には、宮下公園改めMIYASHITA PARKが聳え立ち、まぶしいライトをきらめかせている。

このコントラストたるや、まるで映画のセットのよう。ちょっとしたお気に入りスポットといえば、渋谷フクラスの17階にあるルーフトップガーデン。ここは夕暮れ時が最高。夕紅とコバルトブルーが混ざり合うマジックアワーに運が良ければ富士山も見える。こんなロマンティックな雰囲気の中で、愛を語り合ったりして。そのまま18階に上がって〈セラヴィ東京〉のバーで、マリーナベイ・サンズも顔負けのスクランブル交差点の夜景を見下ろしながらグラスを傾ければ、今宵は言うことなし。

渋谷は若者の街というイメージが強いかもしれないけれど、実は若者から大人まで楽しめる、粋で懐が深い街なんだよね。

歌手、俳優の井上順

僕ははなたれ小僧の時代に、初めて大先輩たちに銀座、六本木の夜の街へ連れていってもらったのが、夜遊びへの第一歩。とにかく大興奮で、そこからはもう、夜の楽しさにどっぷり(笑)。当時は「出世払いでいいよ」なんて、お店の方たちにはずいぶんと優しくしてもらったけど、僕はいつだって爪先立ちで、ものすごく背伸びをしていて、早く大人になりたくて仕方がなかった。

繰り広げられる会話はとても洗練されていて、出会う大人たちはみんな相手のことを思い合い、自分本位なところが一つもない。だからそこで飲むお酒は、何十倍もおいしく感じられるんです。楽しい会話こそが時間を豊かにしてくれるのだと、優しいレッスンを受けているような気持ちでいました。そこで見て、聞いて、触れた世界が、間違いなく今の僕を作っていると思います。僕の歌じゃないけれど、本当に「お世話になりました♪」。

今でも、酒場で隣り合った若者ともすぐに仲良くなってしまいますね。彼らの空気感、今見聞きしていること、考えていることに興味津々だから。最新スポットから音楽、アート、彼らの恋愛事情まで、教えてもらうことの方が多い。

僕は元来、じっとしてるのが苦手なんです。家にいても刺激が少ないからつまらない。外に出て、公園の緑に囲まれて、空気や風を感じるだけでも心がパーッと晴れてくる。公園や街路樹の景色の移り変わり、街を歩く人の装いからも、季節の変化を感じられる。そして、外に出れば、人、モノ、景色との新しい出会いがある。

歌手、俳優の井上順
昭和レトロなのんべい横丁の先に見えるのは、生まれ変わったMIYASHITA PARK。今の渋谷には、昭和と近未来が交差する。

好奇心の塊みたいな男だから、面白い場所がある、新しいお店ができたと聞けば、自分で行って体験してみなければ気が済まないんです。外が好き、街が好き、とにかく人が好き、なんでしょうね。特に今の渋谷は、再開発の真っただ中。昨日まで建っていたビルがなくなっていたり、工事中だったところに新しい店舗がオープンしていたり。日々刻々と街並みは変化していくから、目が離せない。

今この瞬間にしか出会えない渋谷があるのだから、この風景を見逃すなんて、もったいない。みんな、出られる時はもっと夜の街へ出ようよ!そしてもっともっと世界を楽しみましょう。それでは今宵も、グッデ〜イ!