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日本の中のインド亜大陸を食べ歩く。〜新大久保編〜

インド、ネパール、パキスタンなど、インド亜大陸と呼ばれる地域の人々が、日本に祖国の文化を根づかせている。全国に点在するコミュニティには、ディープな食体験があった。

初出:BRUTUS No.918「CURRY for Geeks」(2020年6月15日発売)

photo: Masaki Kobayashi / illustration: Yuko Saeki / text: Toshiya Muraoka

新大久保編

ネパール人学生のための500円ダルバートには、それぞれの民族の誇りとノスタルジーが凝縮されている

東京都心でありながら北新宿には安いアパートがあったり、日本語学校があったり、ネパール人学生たちが暮らす理由がいくつかあり、新大久保には彼らを相手にした店が増えている。10年未満で20店舗以上にも増えていったネパール料理店には、競争原理が働いて、少しずつ特徴の違う文化圏を築いている。

「私の知る限り最初に新大久保にできたネパール料理店は〈MOMO〉という店なんですが、食材店としてスタートしたんです。店の名前の通りネパール式餃子のモモを出していますが、食材店の店先に小さなテーブルと手洗い所を付けて、保健所の検査をパスして。そのスタイルを模倣して食材店と食堂の合わさった店が増えていったんだと思います。

本国には、雑貨屋なんだか軽食屋なんだかわからない店が多くありますからね。カーテンの奥にある世界を覗くように店に行くのも面白い。ネパール人は、インド亜大陸の中でもすごくフレンドリーな人たちが多いので、歓待を受けると思いますよ」

ネパールは小国ながら多民族国家でもあり、新大久保でもそれぞれの民族が店の内装から料理に至るまで、「自分たちの心意気」を見せるようにしてスタイルを披露しているという。

「中でもネワール族という民族は、とても装飾が好きなんですね。そもそもの建材が日本では入手できないので、窓枠や屋根瓦を輸入して、まるで博物館のようになっていて、それを見るだけでも興味深い。それから学生が主なターゲットなので、ダルバートというネパールの定食を500円で出す店が多いんですが、それも民族によってちょっとずつ違う。以前ほど店の差がなくなってきましたが、それぞれにポリシーがあるので、食べ比べるのも面白いと思います」

佐伯ゆう子 イラスト
〈ベトガト〉には食材・衣料品売り場の奥に、食堂がある。売り場の手前でネパール餃子のモモを仕込んでいる。

ネパール人にとってダルバートは「日本人にとってのご飯と味噌汁と漬物」のようなもの。つまり商売の種とは考えづらいものだった。しかし、その分だけ「家庭の味」が食べられるわけで、新大久保はやはり身近な旅先になっている。

日本の中のインド亜大陸を食べ歩く。〜北関東編〜