Drink

うまい酒と話の前にはみんなが平等である。聖地の酒場、伊勢〈一月家〉へ

伊勢には、聖なる地にふさわしい酒場がある。一度は訪れたかった伊勢神宮で心洗われたあとは、地元の酒と料理で澄み切った胃袋をうんと満たす。お伊勢参りの壮大な寄り道に、いざ白暖簾(のれん)をくぐる。

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photo: Akinobu Maeda / text: Tamio Ogasawara

古屋駅から近鉄の特急かJRの快速に乗れば、約1時間半で伊勢神宮のある伊勢市駅に着く。神宮には外宮(げくう)と内宮(ないくう)があり、外宮へは駅から歩けるので、「お伊勢参りは外宮から」の習わし通りに、着いた足でそのまま向かう。なぜなら、目的の〈一月家(いちげつや)〉の開店は午後2時と早い。開店前だというのにひっきりなしに常連さんが戸口に吸い込まれては、大将の張りのある元気な声が店内に響く。「いつものでええやろー!」。

伊勢の酒場 一月家
午後2時のオープンに暖簾が出ていないのは、開店前にはすでにお店が賑わっているから。お客さんに言われてようやく暖簾を掛けるスタイルだが、そのまま出ない日もある。

店主は4代目の森田一也さん。「料理は自己流やけどな、自分が好きなものでないとよう出さん。スピードも大事やで、せっかく飲みに来てくれてるのに待たせたらあかんしな。だから、なかなか電話に出られへんねん」

テーブルからお皿やコップは下げずに、大将がそろばんで計算してお会計。

確かに、電話がずっとBGMのように鳴っている。でも、なみなみ注がれた焼酎のお湯割りを飲むほどに、なんの気にも留めなくなる。

焼酎は伊勢名物の赤福(のグループ会社〈伊勢萬〉)が造る「EIKI」。料理はメニュー札を見て気になったあじフライやわかめ酢みそを頼みつつ、居酒屋探訪家・太田和彦氏をもってして日本三大居酒屋湯豆腐の一角と言わしめる、だし醤油にネギとカツオ節がかかった一品を、燗が合うという「東獅子(あずまじし)」(三重・元坂酒造)で味わう。

どれもが大衆酒場のフツーのメニューで、なんてことないけど、旨い。それがいい。大将との掛け合いも酒のつまみなのだなとよくわかる。初めて来たのに20分もいれば常連気分にさせてくれるのも、大将の心遣いに違いない。