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奇奇怪怪の百貨戯典:30年間で進化しすぎた漫画表現論

Podcast番組「奇奇怪怪」のMONO NO AWARE・玉置周啓とDos Monos・TaiTanが、予算100円以内で売られている中古書を今この時代に読み返す連載の第15回。前回の「メッセージを持たない言葉の“現代詩”論」を読む。

text&edit: Daiki Yamamoto

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周啓

この漫画、俺の本棚にもあったんですよ。『ミノタウロスの皿』。

TaiTan

どうだったんですか、周啓くん的には。

周啓

絵本を読んでいる感覚になったというか。絵や物語の強度で読者を引き込むのが今の漫画だと思うんだけど、この本はそこに達する前の作品だな、という感じがしたね。

TaiTan

面白いんだけど、今の尺度で読むと面白くないというか。これを漫画として読むのはもう不可能っていうくらい今の漫画がすごすぎるんだろうな。

周啓

未来の子供のために保管しておくとか、一瞬だけ童心に返るとか、そのために俺はずっと置いていたのかもしれない。

TaiTan

当時は最先端の表現だったんだろうけど、今は教育的側面が強いというか。それが面白いところではある。

周啓

あと「思考のきっかけを提供してくれる」という面もあるよね。この本の短編のなかで、子供の元に未来の自分がやってきて「今のお前が金を使うよりも、俺に金を預けた方がいい」って持ちかける話があるんだけど。そういう話を読んで、俺は自分のお金の使い方について考えてみたりするわけじゃん。

ただ、そういう役割をChatGPTとの会話で代替できるようになったら、藤子・F・不二雄的な想像力ももう必要なくなっちゃう。

TaiTan

やっぱり、漫画は面白くなりすぎたんだな。表現として完成したんだと思う。『鬼滅の刃』の例を出すまでもなく、お金も潤沢にあるし、強度もズバ抜けている。改めて、たかだか30年で一つの表現って完成するんだなって思ったね。あと、やっぱりお金がないと強い表現は生まれないのかっていう気持ちもある。

周啓

……毎回「お金が大事」っていう結論になってないか?

TaiTan

そりゃお前、お家芸だからな。

ミノタウロスの皿 藤子・F・不二雄
『ミノタウロスの皿』

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