曽祖母の暮らした家を“素材”として自由に使う。
自分にとって世の中のものはすべて“素材”。家について聞く中で、そんな話を始めたアーティストの岡本亮さん。ここ数年は骨董に溶岩や動物の骨、季節の植物などの自然物を組み合わせた立体作品を発表していて、その延長で家も素材に見えているようだ。
もちろん、作品に選ぶ素材は「鳥肌が立つほどのもの」で、家から受ける刺激はそこまで強くはないが、材料を見ればアイデアが浮かぶし、それを実行したくなる。その結果がこの空間で、「憧れの家のカタチに」といった考えはまるでないという。
岡本さんがこの家を購入したのは7年前。兵庫県の日岡は岡本さんの故郷で、家はもともと、曽祖母のものだった。それを残したかったのかと聞けばそうではなく、「日岡は皇族の古墳が残る歴史ある土地。本当か嘘か日岡神社でヤマトタケルが生まれたなんて伝説もある。
日岡山公園はニューヨークのセントラルパーク級の素晴らしい公園だと思うし、この家は駅から徒歩30秒。親戚の家うんぬんじゃなく、単に素質が良いから住むことにしたんです」ときっぱり。
気に入ったのは土地で、家は古い。ならば上物を潰して新築するのかと思えば、岡本さんが目をつけたのは家の各所にちりばめられた建材の面白さ。つまり素材だ。
「建築家になった大叔父がいて、この家の木造母屋に鉄骨で事務所を増築していたんです。その大叔父の奥さんがレンガ会社の娘で、だからレンガが多用してあったり、面白い昭和の新素材も使ってある。ここで実験してたんでしょうね」
改修ではまず残す、残さないを選別。2階の板張りの壁は「ハワイのコアの木みたい」と残すことにし、外壁のレンガや台所の床も質感が気に入りそのまま。その後、岡本さんがこれまで目的なく集めてきた建材や家具を運び入れた。
「母親いわく、幼い頃から石ころやガラクタを拾っては、勉強机の引き出しに詰め込んでいたらしいです。粗大ゴミの日はメモしていたし、浴室の扉も地元の教会が潰れると聞き、ギリギリで救い出したもの。気に入ったら使う当てがなくても実家や倉庫に保管していて、この家で日の目を見たものがたくさんあります」
部屋が落ち着くまでは3年ほどかかったそうで、天井を抜き、壁を取り払ったことで、暖房として入れた薪ストーブがほとんど効かず、後に仕切りを増設したことも。アイデア重視ゆえ問題も出るが、都度、解決しながら生活してきた。
「でも家づくりが好きというよりはものを作るのは日常で、作品に比べたら楽しいもの。思いついたらすぐやりたいので自由な空間は欲しいけど、できたものに執着はなくて、なんならここが丸ごと人の手に渡ってもいい。そうなればまたその時の場所と素材で暮らしやすいと思う家をつくるだけです」