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北海道にフラッグシップビールを!精緻な醸造で飲みやすさを追求する〈Brasserie Knot〉

国内でさまざまな味わいのクラフトビールが登場し、脚光を浴びる造り手=ブルワー。中でも注目を集める植竹大海さんが北海道にてブルワリーを開いたのだそう。今何を思い、その地でビールを醸しているのか?

photo: Shin-ichi Yokoyama / text: Koji Okano

北の大地に居を移した、スターブルワーを訪ねて

釧路空港から車で40分。時にキタキツネやエゾシカに行く手を遮られながら道を北上すると、レトロな白壁と青色の屋根が愛らしい旧・鶴居村立茂雪裡小学校が見えてくる。この校舎を改装し、2022年11月に開業した〈Brasserie Knot〉こそが、醸造家・植竹大海さんの新天地だ。

北海道Brasserie Knotの醸造エリア
〈Brasserie Knot〉の醸造エリア。ホップ投下のタイミングを待ちながら、束の間の休息。植竹さんのもとで醸造を学ぶべく、ブルワーの小林祐也さん(右)、阿久津慧さんをはじめスタッフは皆、東京から鶴居村へ転居したそうだ。

クラフトビールの定着に大きく貢献した、故郷の埼玉・川越〈コエドブルワリー〉で醸造家の道に飛び込んだ植竹さん。ホップの風味を強めたインディア・ペール・ラガー「伽羅」、逆にホップのビター感を抑えたセッションIPA「毬花」など、斬新なビアスタイルを次々に手がけた。14年に同社を退職する頃には、ほかのブルワーからも尊敬を集める存在に。その後は栃木〈うしとらブルワリー〉、北海道〈忽布古丹醸造〉を経て、カナダ〈Godspeed Brewery〉で活躍。そんな華々しい経歴を持つ植竹さんが、なぜ独立の地に人口2500人の鶴居村を選んだのか。

「釣りとキャンプが趣味である僕には、北の大地は理想郷。その中から鶴居村を選んだのは、小学校の体育館が設備を入れるのに最適な広さだったからです。また道東(北海道東部)は札幌などの道央エリアに比べ、まだまだクラフトビールが生活に根づいていない。僕の手で、道東の定番ビールを送り出そうと考えました」

北海道 Brasserie Knotの内部
体育館を醸造所にしただけあって天井が高い。手前が仕込みタンクで、奥に林立するのが5,000ℓの発酵タンク。その向こうに直売所がある。

道東の人々に歓迎された、ベルジャンウィット

元は体育館のステージだった場所はビールの直売所となり、窓越しに醸造工程が眺められる。発酵タンクは5000ℓが10本。新規のクラフトビール醸造所では異例の容量といえるが、滑り出しは順調で、販売の5割は道東エリアが占めるという。

「僕は〈コエドブルワリー〉のヴァイツェン『白』を飲んで、醸造家を志しました。だからクラフトビールに親しみがない人には、同じく白ビール系でより飲みやすいベルジャンウィットから始めてほしいのです」

道東での販路拡大のために、酒店への営業などで多忙を極める植竹さん。

フラッグシップ「FLOWER」は、副原料のオレンジピールとコリアンダーが爽やかに香り立つ。また仕込み時に酵母の量を顕微鏡で厳密に測り、発酵時に酸素の量を徹底的にコントロールすることで、やわらかな口当たりと飲みやすさを実現する。

「もう一つのフラッグシップ『DOTO(=道東)』は、ベルジャンIPA。ドイツホップ、アメリカホップ、ベルジャン酵母を掛け合わせて、複雑味を醸します。広大な道東では、気候や文化も地域で異なる。さまざまなフレーバーを共存させることで、多様性を表現したかったんです」

北の大地で歩み始めた、植竹さん。2023年6月からは次代の醸造家を育成すべく学校を開校、業界未経験の新人を研修生として受け入れる。「全国でブルワリーが急増する一方で、その担い手である醸造家が不足しています。業界が抱えるこの問題を解決する道標になればと考え、開校を決意しました」。日本のクラフトビール業界の輝かしい未来のために。道東から新たな挑戦を続ける植竹さんから、今後も目が離せない。

エゾシカの造形
〈Brasserie Knot〉のロゴマークの題材にもなっているエゾシカの造形。
鹿の角の取っ手
取っ手は道内の芽室在住のアーティスト、DEER HORN SMITH'S制作。