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八幡山〈餃子館〉メニューはほぼ餃子だけ。伝統の味を引き継ぐ名店

日本各地で見つけた餃子専門店。メニューはほぼ餃子と飲み物という店を取材してきました。偶然にも訪れた店のほとんどが、夫婦や家族、親族で営まれていました。独りでは生み出せない継承されてきた味。しつこいようですが、餃子は愛なんです。

photo: Tetsuya Ito / text: Chisa Nishinoiri

ただひたすらに、客も店主も餃子と対峙

餃子館(八幡宮)

トン、トン、ザク、ザク、シャキッ、シャキッ。開店前の静かな店内は、野菜を刻む小気味良い音に包まれている。白菜、春菊、ニラ、キャベツ、セロリ……。

細かく刻まれた野菜が丼に入り、カウンターにずらりと並ぶ。餃子作りは、とても手間がかかる。ひたすら材料を刻み、丁寧に餡を仕込む。それに先立ち、粉と水をこねて寝かせて皮を作る。仕上げは注文が入ってから。生地を切り分け、丸くのばした皮に餡をのせ、一つ一つヒダを寄せて手で包む。

東京〈餃子館〉餃子の具材
とにかく野菜を刻みまくる。「基本は中国の東北地方のスタイルだけど、おいしい旬のものはなんでも入れちゃう」と、ご主人。野菜の水分は絞りすぎず、残しすぎず。その塩梅も熟練の技。

〈餃子館〉の厨房に立つ夫婦の風景には、餃子に対する深い愛を感じずにはいられない。店主の須藤明さんご夫婦は中国東北部吉林省の出身で、餃子一筋30年の大ベテラン。

「餃子の作り方は出身地や家庭によってそれぞれだから、餡も人の好みだね。白菜とニラとセロリはうちの定番。冬瓜も中国東北部ではよく食べるし、春菊も香りがいいね」

主人が笑顔で応えてくれると、すかさず奥さんへバトンタッチ。

「今はピーマンだけど、冬から来春に向けて自家製の酸菜(中国東北部で作られる白菜の漬物)を使った餃子も作ります。中国ではあまり使わないけど、日本人の好みに合わせてキャベツ入りの焼き餃子も。でもニンニクは一切使いません。せっかくの野菜の香りを壊しちゃうからね」

野菜と肉は別々に下ごしらえ。野菜の水気を適度に絞り、ミンチにした豚バラと最後に合わせて餡を仕上げる。肉、野菜、ショウガ。余計なものは何も入らず、仕上げに自家製の魚介系の旨味をひとつまみ。餡に合わせて焼きとゆでを使い分ける。

「具材が違うから飽きることがない」と、夫婦。「こんなに毎日作っているのに休みの日もやっぱり餃子を作っちゃう。だって、自分たちで作るのが一番おいしいから」と、30年毎日食べている餃子愛は筋金入り。

東京〈餃子館〉店内
常連さんは、カウンターの上に次々と皿を積み上げていく。

開店5分前、甲州街道沿いに開店を待ちわびる客が列をなすのもいつもの風景。奥さんが厨房を抜けて窓辺の定位置に立つと、いよいよ店が開く。肩を並べて餡を仕込んでいた夫婦は、ここから互いの専門分野に専念。静かだった店内の空気が一変し、客と夫婦によるカウンター越しの怒濤の餃子応酬合戦が始まるのだ。

注文が入るたびに奥さんが皮をのばす。餡をのせ、つまんでぎゅっと包んで1、2、3ステップで素早く包み上げると、カウンターを越えてご主人に餃子が渡る。ゆでと焼きはご主人担当。ぐらぐらと沸く湯を見定め、「浮き上がってきた餃子がプクッと膨れたら出来上がり」と、ご主人。

ぶりんとゆで上がった水餃子が、湯気に包まれ客が待つ卓上へ届く。餃子はつるんと口に吸い込まれ、回転寿司のごとく皿が次々に重ねられ、また次の注文が入る。

メニューは定番の餃子10種類に、季節の餃子が1種類、自家製キムチとおつまみチャーシューのみ。にもかかわらず、〈餃子館〉の客はみな、長っ尻だ。甕仕込みの紹興酒なんかを相方に、心ゆくまで餃子と向き合うから。女性客でも、この店で全メニュー制覇は珍しくない。積み上げられた皿の数を見れば、その旨さは一目瞭然。

「色々食べ歩いたけど、やっぱりここだよね」と、カウンターに居合わせた餃子好きたちが口を揃える。大満足で会計を済ませ、ふと振り返る窓越しに餃子を包む奥さんの姿を見る。すぐにまた「ただいま」と、店の味が恋しくなるのだ。

東京〈餃子館〉手包み作業の様子
餃子は注文が入ってから、皮をのばして手包みする。窓に面した作業台で、奥さんが丁寧かつ驚くべき速さで餃子を仕上げていく。

焼き餃子1人前5個 450円。(寸)7cm、(皮)薄、(ヒダ)1、(具)普。