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エッセイスト・平松洋子が語る、〈グレース〉のカスタードケーキのこと

西荻窪〈ティー & ケーキ グレース〉の女性店主が焼くカスタードケーキを「愛してやまない」と話す平松洋子さん。家庭的でありながら洗練されているその魅力について語ります。

初出:BRUTUS No.931「なにしろカスタード好きなもので。」(2021年1月15日発売)

photo: Megumi Seki / text: Kei Sasaki

鮮度と美しい緊張感が、もたらすエレガンス

鮮度がいい。ケーキの、しかもスポンジとクリームだけでできたケーキの説明にはふさわしくないかもしれないけれど、〈グレース〉のカスタードケーキを食べると、いつもそう思います。八百屋さんの店先で、みずみずしい果物にかぶりついたときに感じる、ピチピチのイキの良さ!

きっととびきり新鮮な材料を使われていると思うのですが、それだけじゃない。家に持ち帰るのはもったいないような申し訳ないような気持ちになり、必ず喫茶室でいただきます。

カスタード自体が、生まれたての何かを想起させるものなのかもしれません。多くの子供が最初に覚えるであろう手作りの甘味が、プリンやミルクセーキなどの“カスタード族”。私も子供の頃、母が作ってくれたシュークリームを、そのぽってりとした姿ごとよく覚えています。

20年ほど前、初めて〈グレース〉にお邪魔したとき、ショーケースに並ぶケーキを見て「絶対にこれだな」と、まず最初に心惹かれたのがカスタードケーキでした。力を入れずともフォークが下まですーっと入って、スポンジとカスタードクリームが、口の中で混ざり合い、完全に一つになる。

鮮烈な感動は、今も食べるたびによみがえります。いつも感嘆するのは、ほっとする優しさの中に潜む揺るぎない美意識。まるで定規で測ったかのように、折り目正しく重ねられた生地とカスタードの層が、とてもまぶしい。素朴の一言では語れない、「美しき緊張感」がもたらすエレガンスを感じます。

西荻窪〈Tea&Cake Grace〉カスタードケーキ
カスタードケーキ。軽やかなスポンジと軟らかいカスタードクリーム、七分立ての生クリームと、シンプル。

料理人・野村友里が語る、〈グレース〉のカスタードケーキのこと