酒と茶と 襤褸（押上）
花街に新たな人を呼ぶ、凜として和める酒場
東京の東端、どの駅からも徒歩10分前後と近くはないが、古くから続く料亭や和菓子店が軒を連ねる通りに、花街が華やかなりし日の面影が。割烹のように凜としたしつらえだが、酒とつまみにくつろげる酒場が、ぴたりとハマる街並みだ。
主の松木恵美さんは、門前仲町〈酒肆一村〉出身。「ふらふら、好きに生きてきたので」と、「ぼろぬの」を意味する言葉を名に掲げるパンクっぷり。だが、京都・宇治の茶メーカーに6年、「志賀高原ビール」の醸造元、長野県〈玉村本店〉に4年勤めた堅実な経歴がある。
「おひたし」旬の野菜のおひたしは、「会社帰りの一杯でもちゃんとしたものを」「一人暮らしでは買わない季節の食材を」という思いから、必ず用意する一品。写真は一例、春菊と菊花と丹波しめじのおひたし。苦味と山の香りが出会う秋冬の美味。雑味がなく淡麗で、深い旨味のあるだしは〈一村〉仕込み。660円。 
「蒸し栗といくらの醤油漬け」とある酒場で食べた蒸し栗の飯蒸しに着想を得た酒肴。もち米の代わりに温かいベシャメルソースをベースにし、薄切りにした蒸し栗と、塩気控えめの自家製イクラの醤油漬けを合わせた。燗酒とぜひ。660円。 
「舞茸と美桜鶏のスパイスカレー」〆の食事の一品に、時季替わりのスパイスカレーを用意。大阪出身、旅好きでインドを2ヵ月間旅したことがある松木さん入魂の一品。複雑なスパイスとマイタケの和な旨味の融合を、飯碗一杯の量で楽しめる。770円。
酒の推しは、煎茶に玉露と5種類のお茶ハイに「志賀高原ビール」ドラフトペールエールと、来し方がにじむ品揃えだ。つまみも20種以上。ポテサラや鶏の唐揚げなどの定番を軸に、野菜や魚で季節感を添えるのは〈一村〉へのオマージュだ。自身も酒好き、大衆酒場好きという松木さん。
飲ん兵衛の心を掴む接客も自然体。“次代の古典”の有力株！
