岐阜/郡上市。奇跡の清流を遡り、人生最高の“澄んだ味”に出会う〜後編〜

日本三大清流の一つ、長良川。澄み渡る清流が育む鮎は自然からの贈り物だ。晩夏から秋にかけてしか食べられない“落ち鮎”、清らかな水が作る食や酒を求めて。清流に沿って走る長良川鉄道に乗って川を遡った。前編はこちら

photo: Kasane Nogawa / text: Yuriko Kobayashi

清流が育む、郡上八幡のおいしいもの

「おいしい水」とよく言うけれど、それってどういうことだろう。前編で訪れた郡上八幡のあちこちで水の話をしていて気になった。かつて東京の水道水は臭いが強かった。ならば「臭くない=おいしい」ということなのか?

その答えをくれたのは郡上八幡の食だった。「蕎麦は水と蕎麦粉、小麦粉だけで作る料理。ゆでた蕎麦を洗うのもまた水ですからね」とは、蕎麦店〈〉を営む原保元さん。郡上八幡の酒蔵の仕込み水と地元の蕎麦粉で打った蕎麦は、するりと喉を通り、心地よい清涼感が残る。“喉越し”とはこういうことかと感じ入る。

実家が郡上八幡の酒蔵という店主が打つ蕎麦は、酒の仕込み水と郡上産の蕎麦粉、ワサビを使った究極のローカルメイド。しっかりしたコシと蕎麦粉の香り、気持ちのいい喉越し。“きれいな味”という表現が似合う手打ち蕎麦に感激!

香ばしい匂いに誘われて入った鮎とウナギ料理店〈吉田屋 美濃錦(みのきん)〉では敷地内に3本の井戸があり、その水を料理に使っているという。雑味のない水はおいしいだしを作る。愛知県から仕入れた養殖ウナギは年間通して16℃を保つ地下水を掛け流しにした生け簀に数日間放し泥を吐かせることで、臭みが取れて身が締まる。

鮎といい、ウナギといい「川魚は臭みも味の一部だろう」と思っていた自分が恥ずかしい……。本当の川魚のおいしさとは、澄み渡った清々しさの中に土や緑の力強い野性味を感じるものだ。それは山々に囲まれた清流のほとりを歩く時に感じる、深く息を吸い込みたくなるような気持ちよさに似ている。

鮎と同じくウナギにとっても、きれいな水は欠かせない。今や天然物は貴重だが、〈吉田屋 美濃錦〉では養殖ウナギを冷たく澄んだ地下水に放して泥抜きすることで本来のおいしさを引き出している。これもまた郡上八幡の水の力だ。

腹ごなしに町を歩き、地元の人が使う水舟で水を飲んでみた。何の味もしない。その代わり、冷たいものが喉を滑り落ち、心地のいい爽快感が染み渡っていく。あるいは「おいしい」とは、こういうことなのかもしれないと思う。体が澄み、潤っていく。力が湧く。そんな感じ。

夕暮れ時、長良川の支流・吉田川を見下ろす〈SUPPLE COFFEE ROASTERS〉でコーヒーを飲む。魚を狙う釣り人の姿が見える。「この時季、大雨の後はアナゴや鮎の動きが活発になるんです。今日は釣りにはいい日ですね」と、自身も釣り人である店主が言う。

「郡上八幡の硬水は苦味が出やすいから」と店主。軟水器を通したり、焙煎具合を調整したり、〈SUPPLE COFFEE ROASTERS〉は水と対話するコーヒー店だ。コーヒーの味を作るのは豆だけじゃない。そんな学びがある一杯に出会える。

人や生き物にとって、雨もまた自然の循環の一部であり、恵みだ。それは郡上八幡だけの話ではない。食はすべて自然からのいただきものだ。長良川の旅を通して知ったのは、そんな当たり前で、でもとても大切なことだった。

蕎麦〈俄〉

澄み切った水が作る、爽快な“喉越し”

吉田川の清流を見下ろす座敷は、せせらぎがBGM。長良川で育ったアマゴを使った蕎麦も。夜は飛騨牛を使ったコース料理もある。

鰻〈吉田屋 美濃錦〉

地下水が引き出す混じり気のない旨味

代々一本ずつ井戸を掘ることを家訓としてきた老舗旅館。風呂にも井戸水を使うなど、創業以来、ずっと水とともに生きてきた。

珈琲〈SUPPLE COFFEE ROASTERS〉

水と向き合う、自家焙煎のコーヒー

吉田川を見下ろす窓際のカウンター席が気持ちいい。郡上市の特産品「明宝ハム」を使ったサンドイッチなどフードメニューも。

団子〈団子茶屋 郡上八幡〉

郡上の米と醤油の旨さ、しみじみと

他にも訪れたいスポット情報

MODEL PLAN

〈1日目〉
09:56 美濃太田駅から長良川鉄道乗車。
10:44 木尾駅で下車、〈みやちか〉へ。
11:00 鮎料理とヤナ漁を楽しむ。
13:41 長良川鉄道で郡上八幡駅へ。
14:30 〈渡辺染物店〉でお土産購入。
15:30 〈こぼこぼ〉でビールを飲む。
16:30 〈蘘荷渓房〉にチェックイン。
17:00 夕暮れの町をぶらぶら散歩。
18:00 〈TOMORROW 燈蠟〉で夕食。

〈2日目〉
10:30 〈団子茶屋〉でモーニング団子。
12:30 〈俄〉で蕎麦ランチ。
13:30 町をぶらぶら散歩。
15:00 〈糸CAFÉ〉でクラフトジンを飲む。
16:00 〈吉田屋 美濃錦〉で早めの夕食。
17:00 〈SUPPLE COFFEE ROASTERS〉へ。
18:56 長良川鉄道で美濃太田駅へ。

TRAVEL MAP

岐阜県郡上市近辺の地図

美濃太田駅へは名古屋駅からJR高山本線の特急ひだを利用するのが便利。1日1往復運行する長良川鉄道「ゆら〜り眺めて清流列車」は景勝地で徐行してくれるので、おすすめ。