岐阜/郡上市。奇跡の清流を遡り、人生最高の“澄んだ味”に出会う〜前編〜

日本三大清流の一つ、長良川。澄み渡る清流が育む鮎は自然からの贈り物だ。晩夏から秋にかけてしか食べられない“落ち鮎”、清らかな水が作る食や酒を求めて。清流に沿って走る長良川鉄道に乗って川を遡った。

photo: Kasane Nogawa / text: Yuriko Kobayashi

長良川に秋を告げる“落ち鮎”。伝統漁を体験!

「今晩は大雨だから、明日は鮎が来ますよ」。電話口で漁師が予言めいたことを言う。日本三大清流の一つに数えられる長良川。清流にしか生息しない鮎はその象徴だ。

8月から10月にかけて、長良川では“落ち鮎”の漁が行われる。落ち鮎とは産卵のために川を下っていく鮎のことで、プチプチとした卵を味わえるのはこの時季だけ。今回は古くから伝わる落ち鮎の“ヤナ漁”も見学・体験してみたいと、漁師が営む天然鮎料理専門店〈みやちか〉に予約を入れたのだ。

翌日、現地を訪れてみると、予言は的中していた。濁った激流に姿を変えた長良川。その中で漁師たちが忙しく網を動かしている。ヤナ漁とは川の中に木や竹で作ったすのこ状の台(ヤナ)を設置し、川の流れの一部を堰(せ)き止めることで上流から下ってきた鮎を待ち構える漁法。恐る恐るヤナ場の上に立つと、数秒で足元が鮎であふれる。鮎が“落ちて”いく。だから“落ち鮎”。「自然からのギフト」という言葉をこれほどダイレクトに感じたことはなかった。

岐阜〈天然鮎料理 みやちか〉用の木や竹などで造られたヤナ場
木や竹などで造られたヤナ場。上流から下ってくる鮎がここにかかる仕組み。

「さっきまで生きていた鮎です」と出された活き造り。臭みとは無縁で、上品な白身魚のような、それでいて、ほんのりと青く爽やかな香りが鼻に抜ける。唐揚げは、たっぷりの卵が口の中で弾け、春の若鮎とは違った楽しい食感だ。「季節によって味わいが変わる鮎は長良川の季節そのもの」という漁師の言葉を思い出す。長良川の自然を丸ごと食べる。それが天然鮎を味わう醍醐味なのだ。

水の町・郡上八幡で知った、水と人・食の“いい関係”

長良川沿いを旅するなら鉄道がいい。川に沿って走る長良川鉄道は清流に沿ってのんびりと走る。中流でヤナ漁を体験したあとは、鉄道に乗って郡上八幡(ぐじょうはちまん)へ。鮎たちを大きく育てる長良川の上流域を見てみたくなった。“水の町”と呼ばれる郡上八幡。

長良川の川幅は狭くなり、いっそう澄み渡る。町の至るところに水路があり、悠々とコイが泳ぐ。山に囲まれた町では湧水や山水も豊富で、人々はそれらを引き込み、「水舟」という共同水場を作って、飲用や炊事に使ってきた。今もその風景が残り、長良川の清らかさを保てているのは、住民同士が協力して清掃と美化に努めてきたからだ。

岐阜県郡上八幡の町
長良川とともにある郡上八幡の町。夏には橋から子供たちが川にダイブする姿も。

清らかな水を求めて、郡上八幡には多くの食の担い手が集まる。クラフトビールを造る〈郡上八幡麦酒こぼこぼ〉の松本徹哉さんも、その一人だ。長く地質調査の仕事に携わってきた松本さん、大好きなビール造りを生業(なりわい)にしたいと考えていたとき、ここの水に出会い、惚れ込んだ。

「石灰岩の山から流れる郡上八幡の水は日本では珍しい中硬水。ビールの本場ヨーロッパと似ていて、ビール造りには最適です。水はビールの命。おいしさはもちろん、水とともに人が生きるこの町のあり方にも感激して、ここに移り住んだんです」

レストランやカフェ、伝統工芸。立ち寄った店で、何度も「水があるから、ここにいる」という言葉を耳にした。生き物だけじゃない、人間もまた、水に生かされている。

ほかにも訪れたい郡上八幡のスポット

町家ステイ 蘘荷渓房

糸CAFÉ

岐阜〈糸CAFÉ〉ホットドッグとスープ、サラダのランチ
郡上産の野菜を使ったホットドッグとスープ、サラダのランチ。1,100円。金曜・日曜のみ。

郡上本染 渡辺染物店

TOMORROW 燈蠟

岐阜 長良川の上を配しる長良川鉄道
美濃加茂市の美濃太田駅から郡上市の北濃駅を結ぶ長良川鉄道。全長72.1kmのうち約50kmを長良川に沿って走る。途中にある橋梁では、長良川や支流の上を気持ちよく走る。