最近、「地政学」という言葉をよく耳にするようになった。英語では「ジオポリティクス」。半永久的に変化しない地理的条件に着目し、世界各国の意思決定や行動、関係性を分析する研究や戦略を指す。グローバル化しているビジネスにおいて、世界各国の動向を読み解くスキルは必須。それがリスク低減にも、ビジネスチャンスにもつながるからだ。
そのため、ここでは日本のビジネスにも影響の大きそうな、注目すべき世界の主な10個のリスクを挙げ、その概要と今後の見通しを学んでみる。
地政学や国際政治学の視点を持つことで、近い将来に起きる出来事の方向性を予測していくことはできるはずだ。ビジネスの現場では、「今後どうなるか」という部分に常に関心が集まるため、さまざまな情報を収集したうえで、ある程度の根拠とロジックで判断していけるようになれば、きっと強みとなるだろう。
1.深まる米中対立とデカップリング
23年8月の大統領令は、「懸念国」(中国)が「軍、インテリジェンス、監視、サイバー能力に不可欠な機密技術や製品の進歩を直接的に指揮、促進、その他の方法で支援する包括的・長期的な戦略を遂行している」との認識の下、米国から中国のスーパーコンピュータ等の開発に貢献する半導体への新規投資を制限する。これにより先端半導体分野ではモノ、ヒト、カネのデカップリングが進む。
2.分断が加速する米国社会
24年米大統領選においてもバイデン現大統領とトランプ前大統領の一騎打ちとなる可能性が高いといえる。仮にバイデン氏が再選したとしても米国社会の分断は癒えないだろう。
3.中国経済の不透明性:現在と将来の間で揺れる経済政策
自己資本比率▲25.4%(2022年12月決算時の数値)。通常であれば事業の継続を断念し、事業清算等も選択肢に入るような財務状況にも関わらず、存続はもちろん上場すら継続している企業がある。中国の不動産大手・中国恒大集団だ。
4.台湾海峡有事
2021年3月、米インド太平洋軍のデイヴィットソン司令官(当時)は議会で、中国の台湾侵攻に関する「脅威は今後10年以内、実際は今後6年以内に明らかになる」と述べた。そして、多くの予想に反したロシア・プーチン政権によるウクライナ全面侵攻(22年2月~)は、中台危機への懸念を加速させている。
5.タイ「民政移管」の虚実
タイでは、2014年の軍事クーデタ以降、軍政が敷かれていたが、19年の下院総選挙で民政移管が行われた。プラユット前首相率いる「文民」政権が発足したものの、実質的に民政移管前の軍政と変わらず、国王を頂点とした政治体制が続いている。
6.インド長期政権の行方
2023年、モディ政権は発足から10年目を迎えた。来年春には下院の総選挙を控え、次期インド政権の行方に注目が集まっている。
7.硬直化するウクライナ戦争
2022年2月24日、ロシア・プーチン政権は多くの人々の予測に反して、ウクライナに全面侵攻。開戦から1年7カ月が経過した現在もウクライナ東部・南部を中心に戦闘が続いている。現在の政治環境や戦況を鑑みれば、当面は戦闘が続くだろう。
8.欧州先進国での生活不安の噴出
22年以降のウクライナ戦争によってより顕在化した世界的インフレ。欧州のインフレ率は22年の1年間で9.2%と、日本・米国等に比べても高い水準となり、ライフラインや食品等あらゆる品目の値上げが家計を圧迫している。
これによる生活不安は、欧州先進国各国でのデモやスト、さらには右派政党の躍進というかたちで噴出。今後も、ウクライナ情勢や各国政策の動向等に鑑みると、予断を許さない状況が続く。
9.中東新秩序
2023年3月、2016年から断交状態にあったサウジアラビアとイランが国交正常化に合意したことを発表。さらに8月、サウジアラビアとイランがUAEやエジプト等と共にロシア・中国が加盟しているBRICSに加盟することが発表。いずれも中国が主導したとされる。
かつて中東地域で影響力を誇っていたのは米国であったが、オバマ政権以降は中東離れが進でおり、中国が存在感を増している。今次国交正常化はまさに中東の勢力図変化を世界に印象付けている。
10.脱アンチテーゼ化する反ESG
「もうESGという言葉は使わない」。世界最大の資産運用会社ブラックロックのCEO・ラリー・フィンク氏の2023年6月の発言だ。同氏は、株主の立場から企業に対し脱炭素を求める書簡や意見書を送るなどESG投資を牽引してきた人物である。そんな同氏がこのような発言に至ったのは一体なぜなのだろうか。