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世界の地政学&国際関係リスク Vol.7「硬直化するウクライナ戦争」

特集「大人になっても学びたい!」に掲載した八田百合による特別授業「地政学から近未来を予測するリスク管理スキル」の拡大版!

世界中あらゆる地域で起こる紛争やその火種の中から、ビジネスに大きな影響を及ぼすリスクを10個ピックアップ。本誌では紹介しきれなかった、これらのリスクの概要と今後の見通しについて解説します。

text: BRUTUS

グローバル化していくビジネスにおいて、国際情勢を読み解くスキルは必須。ここでは、日本のビジネスにも影響の大きそうな、世界の主なリスクを挙げ、その概要と今後の見通しを学んでみる。教えてくれるのは人気コミック『紛争でしたら八田まで』の監修を手がける川口貴久さんが所属する東京海上ディーアールの方々です。

硬直化するウクライナ戦争

2022年2月24日、ロシア・プーチン政権は多くの人々の予測に反して、ウクライナに全面侵攻した。当初の狙いは短期間でのキーウ制圧とゼレンスキー政権排除であったとみられるが、開戦から1年7カ月が経過した現在もウクライナ東部・南部を中心に戦闘が続いている。現在の政治環境や戦況を鑑みれば、当面は戦闘が続くだろう。

今後、両国が(22年3月末を最後に行われていない)停戦協議を再開して合意に至ること、実質的な停戦状態に収束することはあるかもしれないが、それは「凍結された紛争」にすぎない。「凍結された紛争」とは、表面的には武力衝突等は収拾しているものの、紛争の原因・解決は棚上げされ、容易に武力衝突が再開される状態を指す。

このベースシナリオでは日本企業に与える影響は既に生じているものを中心に、予見可能な範囲に収まるだろう。つまり、ロシアビジネスの縮小やエネルギー供給への影響といった範囲だ。しかし、ウクライナでの戦争が現在の延長戦上ではなく、日本も含めた各国の企業活動により甚大な影響を与えるとすれば、関連する2つのシナリオが考えられる。

一つはウクライナでの戦争が米国・北大西洋条約機構(NATO)が関与する戦争にエスカレートするリスクである。現時点で(そして将来も)、米国・NATOおよびロシアはそれを望んでいないが、エスカレーションのきっかけはいくつかある。

偶発的事故、長らく懸念されてきたロシアによる戦術核の使用(ロシアが軍事的に追い込まれた結果、戦況を覆すため、地上の無人地帯・黒海洋上・高高度等で戦術核を使用する等)、ロシア系ランサムウェア集団による西側重要インフラへの破壊活動等である。米国・NATOとロシアが一時的でも直接交戦状態に陥れば、世界経済への甚大な影響は不可避だ。

もう一つはロシア国内での政変、プーチン政権の終焉である。例えば、ラトガース大学のアレクサンダー・モティル教授はウクライナ戦争のはるか以前(15年2月)から、このシナリオを指摘してきた。

すなわち、(1)ロシア版のカラー革命(民衆蜂起)、(2)プーチン政権の支持基盤であった「シロヴィキ」(軍・治安関係者やその出身者の総称)や「オリガルヒ」(新興財閥)等のエリートによる反乱・クーデター、(3)チェチェン、イングーシ、ダゲスタン等の中央アジアの分離独立主義者によるロシア解体である。

いずれも「ブラックスワン」のようなシナリオだが、(2)はエフゲニー・プリゴジン率いる民間軍事会社「ワグネル」の武装蜂起(23年6月)という形で現実化した(プリゴジンらが伝統的な政治・経済エリートではないにせよ)。ロシア内部での突発的な権力移行はより強硬な指導者を生み出す恐れもある。

22年2月23日以前、多くの人は「考えられないことを考える」ことに失敗した。同じ過ちを繰り返してはならない。(川口貴久/東京海上ディーアール)