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世界の地政学&国際関係リスク Vol.8「欧州先進国での生活不安の噴出」

特集「大人になっても学びたい!」に掲載した八田百合による特別授業「地政学から近未来を予測するリスク管理スキル」の拡大版!

世界中あらゆる地域で起こる紛争やその火種の中から、ビジネスに大きな影響を及ぼすリスクを10個ピックアップ。本誌では紹介しきれなかった、これらのリスクの概要と今後の見通しについて解説します。

text: BRUTUS

グローバル化していくビジネスにおいて、国際情勢を読み解くスキルは必須。ここでは、日本のビジネスにも影響の大きそうな、世界の主なリスクを挙げ、その概要と今後の見通しを学んでみる。教えてくれるのは人気コミック『紛争でしたら八田まで』の監修を手がける川口貴久さんが所属する東京海上ディーアールの方々です。

欧州先進国での生活不安の噴出

昨今の世界的なインフレの傾向は2021年ごろより見受けられるようになり、22年以降のウクライナ戦争によってより顕在化した。欧州のインフレ率は22年の1年間で9.2%と、日本・米国等に比べても高い水準となり、ライフラインや食品等あらゆる品目の値上げが家計を圧迫した。

これによる生活不安は、欧州先進国各国でのデモやスト、さらには右派政党の躍進というかたちで噴出した。今後も、ウクライナ情勢や各国政策の動向等に鑑みると、予断を許さない状況が続く。

フランスにおける年金改革法案の発表および強硬採決(23年3月20日)と、それに対する大規模な抗議運動は、直近で最も耳目を集めた事象のひとつだ。この改革案は年金支給開始年齢を62歳から64歳へと段階的に引き上げるもので、19年から推進されてきた年金制度改革の一部である。改革の途上で新型コロナウイルス感染症、さらにはウクライナ戦争による経済の混乱や歴史的なインフレが発生したことも手伝い、23年1月から6月にかけて14回もの全国的な抗議活動が展開され、一部では警察との衝突にまで至った。

抗議者が鉄道の線路に座り込む等の行為も確認された。うち2回の活動には350万もの人々が参加(労組発表による)する、きわめて大規模な活動となった。

そのほかにも、生活不安による市民の運動が発生している。ベルギー(22年6月20日)における生活費高騰への対策を求めるデモでは、労働者が終日のストを断行し、空港・公共交通機関が停止する事態となった。ドイツ(23年3月27日)では運輸産業が一斉ストを、英国でも多岐にわたる職種の人々がストを実行した。いずれも物価高を発端とするものであった。

生活不安はさらに、抜本的な生活支援を謳う右派ポピュリズム政党の躍進という結果にも表れている。フランス国民議会選で「国民連合(RN)」が第2党に躍り出たのを皮切りに、スウェーデン議会選で極右「スウェーデン民主党(SD)」が第2党、イタリア上下院選では極右「イタリアの同胞(FDI)」が第1党へ躍進した。

一連の出来事は、先進国であっても、これまでの生活水準がままならなくなれば、社会の安定が揺らぎ、変革が求められるということを証明する。欧州における経済混乱は小康状態に向かいつつあるが、各国におけるウクライナ戦争とのかかわり方や中長期的なエネルギー政策によっては、デモ活動などの再燃や大規模化、あるいは右派政党のさらなる躍進等が生じることも想定される。(松枝雅/東京海上ディーアール)