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世界の地政学&国際関係リスク Vol.6「インド長期政権の行方」

特集「大人になっても学びたい!」に掲載した八田百合による特別授業「地政学から近未来を予測するリスク管理スキル」の拡大版!

世界中あらゆる地域で起こる紛争やその火種の中から、ビジネスに大きな影響を及ぼすリスクを10個ピックアップ。本誌では紹介しきれなかった、これらのリスクの概要と今後の見通しについて解説します。

text: BRUTUS

グローバル化していくビジネスにおいて、国際情勢を読み解くスキルは必須。ここでは、日本のビジネスにも影響の大きそうな、世界の主なリスクを挙げ、その概要と今後の見通しを学んでみる。教えてくれるのは人気コミック『紛争でしたら八田まで』の監修を手がける川口貴久さんが所属する東京海上ディーアールの方々です。

インド長期政権の行方

2023年、モディ政権は発足から10年目を迎えた。来年春には下院の総選挙を控え、次期インド政権の行方に注目が集まっている。

2019年の総選挙での勝利により、2期目に入ったモディ政権。新型コロナウイルス感染症の影響による国内景気の低迷、ナショナリズム路線の推進による宗教分断、それらに対する反政府デモの頻発など、発足直後の歩みは平坦ではなかったが、直近の政権運営はすこぶる好調だ。

インフラ整備などの国内経済政策、多極主義・戦略的自律に基づく独自の外交戦略などが、現状は高く評価されている。また大きな政治問題となっていた新農業法を施行からわずか1年で撤廃するなどの柔軟な政策により、従来からの支持基盤だった上位カーストに加え、下位カーストからの支持も着実に取り付けてきたこともその要因といえる。

こうした好調な政権運営の下、モディ首相率いる与党インド人民党(BJP)は、来春の総選挙の前哨戦ともいえる各州の議会選挙でも着実に勝利し、政権の地盤を強固にしている。昨年3月の最大州ウッタル・プラデシュ州での勝利の他、今年3月には北東部3州(トリプラ州、メガラヤ州、ナガランド州)でもBJPを含む連立与党が勢力を維持するなど、BJP一強の流れはより鮮明になってきた。

現情勢を踏まえると、来春の総選挙でもBJPが勝利し、第3期モディ政権が樹立する可能性は非常に高いといえよう。

3期目に向けて盤石の体制を整えつつあるモディ政権だが、懸念事項が全くないわけではない。経済成長の減速や国内の高い失業率など、経済政策上のいくつかの課題を抱えている他、その強権的な政治手法には大きな危険が内在している。前述の通り、現モディ政権は発足直後、ヒンドゥー至上主義のナショナリズム路線を推進し、異教徒に対する迫害を強めてきた。

2019年8月には憲法第370条を廃止し、イスラム教徒が人口の大半を占めるジャンムー・カシミール州から自治権を剥奪。また2020年1月に施行した改正国籍法においては、不法入国した移民へのインド国籍の付与対象からイスラム教徒を除外し、国内のイスラム教排除の姿勢を一層強めたことなどは、その象徴的な事例だ。

この他、議長国を務めた先日のG20では、自国の呼称にヒンディー語の国名である「バーラト」を用いるなど、今後の一層のナショナリズム路線推進をうかがわせる動きも見られる。

こうした手法には、国内外のイスラム教徒のみならず、欧米各国も批判的な見解を示している。前述の経済政策上の課題に加え、今後これらへの批判や反発が強まれば、来春に政権を維持できたとしても、その運営は一筋縄にはいかないだろう。

G20では議長国として、外交上の大きな役割を果たしたモディ政権。次の焦点は、来春の総選挙での勝利とその後の内政強化となりそうだ。(山本恭平/東京海上ディーアール)