実験的なホラー小説が体現するのは、エンタメ表現の最前線
「怖い」という感情は、新鮮さからもたらされるもの。人は慣れによって怖さを感じなくなるものなので、ホラーの書き手たちは常に新しい表現を模索しています。ゆえに、実験的なアプローチが多いホラー小説に触れることは、同時代のエンタメ小説の最前線に触れることと同義と言えるかもしれません。
最近読んで特に革新的だったのが(1)。怪談は時に、科学者たちから戯言だと馬鹿にされることがありますが、その科学者たちのように、優れた論理的思考力を持つ東大生たちから実話怪談を集める試みがまず面白いです。そして、一般的な怪談なら省かれるような体験者のプロフィールが具体的に描かれているのも斬新。
キャラクターが立つので絵が浮かびやすいんですよね。怪談の王道ではないとんちきなエピソードも多いんですが(笑)、不思議な体験を前に、現実か否かに戸惑う気持ちの揺れ動きが豊かに伝わってきます。
一方で、ホラー小説において、お化けが登場する決定的な瞬間と同じくらい重要になるのが、不安や苛立ちの表現。予期不安の描き方が見事なのが(2)です。スペインの女性作家による短編集で、架空の人々の人生の断片が短い文章で綴られるんですが、圧倒的なリアリティから、自分の人生にも起こり得るのではと底なしの不安に引き込まれます。嫌な気分にもなるんですが、カポーティやカーヴァーを思わす端正な文章が助けて不思議とページをめくる手が止まりませんでした。
さらにもう一歩進んで、本の中で起こる怪異がリアルな世界を侵食してくるのが長編小説の(3)。読み進めると、QRコードが登場し、それをスマホで読み込むと恐怖の画像に誘われたり、作中登場するツイッターアカウントが現実にも存在したりと、本を飛び越えて能動的に怪異がやってくる。その仕掛けが新鮮です。
恐怖を感じることは、普段はできるだけ避けたいものですが、裏を返せば絶好の非日常体験でもあります。本を通じて普段は味わうことのない感情を呼び覚ますことで、身の回りの世界も新鮮に見えてくるかもしれません。