本当の気持ちを思い出して、深呼吸するような時間をくれる

(1)『そよそよとかぜがふいている』長新太/作・絵
大きな両手でペッタン、ペッタン歩くネコ。タヌキでもライオンでも、出会う動物を続々「おにぎり」にしてしまうという、「なぜ?」がいっぱいの奇想天外な長新太ワールド全開の一冊。鮮やかな色彩感覚もたっぷり味わえる。教育画劇/品切れ。
(2)『よあけ』ユリー・シュルヴィッツ/作・絵 瀬田貞二/訳
山に囲まれた湖畔、暗く静かな夜明け前。沈みかけた丸い月、湖を揺らすそよ風、カエルや鳥の声……。夜明けの移ろいゆく風景を、優しい色調で描く。福音館書店/1,320円。
(3)『おやすみなさい おつきさま』マーガレット・ワイズ・ブラウン/作 クレメント・G・ハード/絵 瀬田貞二/訳
みどり色のお部屋。風船や手袋、仔猫など部屋のすべてのものに「おやすみなさい、いい夢を見てね」と語りかける。アメリカで1,000万部を超え、読み継がれる名作。評論社/1,320円。
情報が溢れすぎている世の中では、自分の気持ちさえわからなくなることがあります。そんな時はいったん落ち着いて、やわらかい心で自分を見つめ直すことが大事だと思います。僕自身SNSで漫画を発表する中で、一時期「バズる」ことを必要以上に重視しかけたこともありました。
そんな中で絵本は、「自分は本当に描きたいものを描けているのだろうか?」と本心に立ち返り、深呼吸する時間をくれたんです。特に好きなのは、絵のためにストーリーがある作品。
色、構図、表情、足の角度、なんでもいいのですが「作者はとにかくこの絵が描きたかったんだな!」という“いい絵”を見ると、視界がくっきりと晴れるような感覚になります。選んだ5冊はどれも、作者が心から面白いと思うものや美しいと思うことが表現されていると感じます。
初めて見た時、絵に一目惚れした長新太さんの作品。うっかりすべてを長さんのものから選んでしまいそうになるほど大好きです。小さな子供のように大胆な描線と色使い。何度読み返しても飽きない文章のリズム。絵と言葉、ページをめくることそのものの気持ちよさをシンプルに追求している感じがあり、絵本という表現の自由さを教えてもらいました。
予想もつかない展開だけでなく、何度読んでも面白いというのが長新太作品の魅力ですが、中でも『そよそよとかぜがふいている』(1)はクレイジーなのにのどかな風が吹いてくるような読み心地。77歳で作ったことにも驚きます。一方で、都会の、四六時中ネットに接続された生活を送っていると、『よあけ』(2)に描かれているような豊かさの存在をつい忘れてしまいます。初めて読んだ時、最後のページで声が出そうになりました。
同じく、静寂の素晴らしさを感じさせてくれる『おやすみなさい おつきさま』(3)。子供時代の世界の広さや時間の長さも思い出します。(2)も同様ですが、瀬田貞二さんの訳もいいんです。例えば「おやすみ こねこさん/おやすみ てぶくろ」という具合に、全部を「さんづけ」にしないことでリズムよく、甘ったるさを抑えている気がしますね。一日の終わり、寝る前に読んでみてほしいです。