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インソールをオーダーメイドできる専門店〈FOOTWORKS〉を、栗野宏文が訪ねる

仕事柄、洋服や靴のビスポークの現場を数多く見てきた栗野宏文さん。インソールをオーダーメイドできる専門店があると聞いて興味津々。早速店を訪ねることにした。

photo: Kiichi Fukuda / text: Mari Matsubara

栗野宏文

はじめまして。ここに座ればいいですか。

森健

どうぞ、お荷物を置いてください。インソールをオーダーで作るのは初めてですか?

栗野

はい。そんなお店があるなんてことも知らなかった。でも、僕は結構前から市販の中敷をいろいろ買って、靴に合わせて使い分けたりしているんです。あくまで自己流ですけれど。

左から、〈FOOTWORKS〉店主の森健さん、栗野宏文さん。

これまで体の不調は?

栗野

実は過去に腰痛と坐骨神経痛でかなり辛い思いをしました。でも12年前に気功に出会ってだいぶ良くなった。内臓も肩も経絡で繋がっていて、地面に接する足裏が重要であることを身をもって知りました。だからここに来るのを楽しみにしていたんです。

今日履いてきたのは《ニューバランス990》。とても歩きやすい設計で気に入っています。サイズは9か9½。ケースバイケースでどちらかを購入して、中敷で調整したりします。

普段から足元に気を使っていらっしゃるのですね。

栗野

〈ユナイテッドアローズ〉を立ち上げた34年前に買った〈ALDEN〉のローファーがあるんですが、ヒールの外側がすり減ってしまうのを直しながら、ずっと履いています。

それでは早速ですが、足型を取らせていただきますね。このフットプリンターの上に片足を置いて、両足で立ってください。

栗野

足を汚さずに紙の上に足型を取るんですね。これ、どこ製ですか?

西ドイツ製と書いてありますから、東西統一前のものですね。アナログな道具ですが、使いやすいので、僕は気に入って使っています。

南青山FOOTWORKS 西ドイツ製のフットプリンターに片足ずつ載せ、紙に両足の足型を取る
来店したらまず西ドイツ製のフットプリンターに片足ずつ載せ、紙に両足の足型を取る。これで足の裏にかかる体重のバランスを見る。

栗野

森さんから見て僕の足型からどんなことがわかりますか?

まず右足の方に体重がより多くかかっているのがわかります。そして親指と踵(かかと)の部分に濃く色がついていて真ん中がやや弱い。極端に言えば足の前と後ろがシーソーみたいな状態で、バランスを取るのがあまり得意でない足のようです。

栗野

ああ、なるほど。

あと、親指と拇指球(ぼしきゅう)の間に色がつかない、つまり接地していない状態が望ましいのですが、栗野さんの場合はそこに色が少しだけついていますね。ということは、進行方向に対して足がやや開いているのです。

栗野

そういうことが足型を見ればすぐわかるんですね。

いえ、実は栗野さんがお店に入られた時に立ち姿や歩く様子を見ていて、大体見当がついていました。足型を取るのは、一応その答え合わせをするようなものなのです。

栗野

そうなんですね⁉すごい。

南青山FOOTWORKS店内 顧客と会話しながらインソールを作る
GRASのランプなど、インダストリアルな雰囲気の店内で、顧客と会話しながらインソールを作る。

インソールによって足指を正しい位置に誘導

インソールを作る目的は、真っすぐ立って、真っすぐ歩ける体に導くことなんです。大抵の人は長年の癖がついてしまって足の裏に正しく体重を乗せられていません。左右の足の人差し指が平行になるように立ち、進行方向に真っすぐに足を出すのが良い歩き方なのですが、大体足が外へ開いていることが多いのです。

歩く方向に対して足がねじれていると、膝も股関節も骨盤も、さらには内臓や背骨、首まで全部ねじれてしまう。それが腰痛や偏頭痛などを引き起こすのです。

栗野

じゃあ、バレリーナのような立ち方は良くない?

歩き方としてはおすすめできません。車のタイヤが外側に逆ハの字に開いていれば、タイヤが1周回るごとにねじれて、しまいには車体が壊れてしまうでしょう。

栗野

なるほど、わかりやすいたとえですね。

しかし体にすり込まれた体重のかけ方や歩き方を自分の意識だけで変えるのはまず無理です。それを矯正してあげるツールがインソールなのです。では、先ほど取った栗野さんの足型を見ながら、実際にインソールを作っていきますね。

栗野

ベースとなるインソールはどこの製品ですか?

ドイツから取り寄せています。あらかじめ大体の足裏のカーブがついているのですが、ここに栗野さんの足を正しい位置へ導くために付け足すパーツを発泡性ラバーシートから切り抜き、糊で貼り付けてグラインダーで削っていきます。

試用期間と調整を重ね3度目の来店で完成

栗野

足型を見ただけで、どのぐらいのパーツをどこに付け足せばいいのか、判断できるんですね。そのメソッドはどこで教わったんですか?

父のやり方を踏襲しています。

栗野

お父様も同じ職業?

そうなんです。体のあちこちに不調を抱えていた母を父が毎日接骨院に連れていっていました。父はほかの患者さんを眺めているうちに、施術直後は正しい姿勢になっているのに、駐車場まで辿り着く頃にはまた元の悪い姿勢に戻ってしまっているのを見て、これは履き物と歩き方が悪いのだろうと考えたそうです。

そこから父は独学でインソール作りを学び、試行錯誤の末にベストな形に行き着いたのです。その後、仕事として取り組むようになり、今ではアスリートのインソールなども手がけています。

栗野

素晴らしいですね。

今日作るインソールは、いきなり最良の状態まで持っていきません。最初から完成形のインソールだと、体に違和感や痛みを与えることもあります。まず今日作ったもので慣れていただき、1ヵ月後ぐらいにまたご来店いただいて微調整します。それを繰り返し3度目の来店で完成になります。

栗野

歯医者さんで言う仮歯みたいなものですね。

削り終わったインソールを足裏にセットしますね。では立ち上がってみてください。 

栗野

ああ、さっきと感覚が違いますね。

今日、栗野さんが履いていらしたスニーカーのヒールに合わせて踵を少し上げています。どうですか?指先に自然と体重をかけやすくなったでしょう。肩や胸も開いてくるのがわかりますか?

栗野

わかります!なんだか背が高くなった気分です。

このインソールをお持ちのスニーカーに入れてみます。

栗野

スニーカーに元から入っていたインソールの上に重ねるんですね。

セットしましたので、スニーカーを履いて歩いてみましょうか。

栗野

おーっ。人類が初めて二足歩行したような新鮮さです(笑)。

足を進行方向に真っすぐ伸ばすように。右の歩幅が少し大きいので、左をもう少し大きめに踏み出してみてください。遠くを見て、腕も振ると上半身が安定します。親指と人差し指で地面を押し出すイメージで歩くといいですよ。

栗野

気分が明らかに違いますね。もともとポジティブな人間だけれど、ますます拍車がかかりそうです(笑)。

歩き方を整えると、メンタルにもいい影響を与えると思います。

栗野

だいたい、一般的な日本人が普段靴を履くようになってから150年くらいでしょ? ということは西洋に比べて靴の歴史がずいぶん浅いから、足が慣れてないのかもしれない。でも洋服を着こなすうえで真っすぐ立ち、真っすぐ歩くことは大事ですから、インソールの存在は非常に重要ですね。

2年ごとの作り替えで築く店と顧客の長くて良い関係

栗野

このインソールはほかの靴にも使えるのですか?

ブーツやスニーカー、紐靴で爪先よりヒールが少し高いものなら流用できます。履き込みが浅いローファーには向きません。

栗野

外反母趾(がいはんぼし)にも効果的ですか?

うちのインソールを2年使って、外反母趾の痛みが全くなくなり、冷え性も治ったというお客様がいます。足指を使いやすくなるので、症状が和らぐようです。

栗野

一度作ったインソールはどのぐらいもつのですか?

大体2年ですね。足型はこちらで保管しておき、2年後に新たに足型を取って作り直します。

栗野

2年経てば体は老化するし、病気をするかもしれないし、足の状態もきっと変わりますね。足型を一回取って終わりではなく、その後もずっとお店との関係性が続いていくって、いいことですねえ。それにフットプリントって「足跡(そくせき)」という意味もある。足型を定期的に取るということは、人生の足跡を残していくってこと……なんか格好いいね。

普通、店側がお客様に対して「ありがとうございます」と言うのに、「おかげで調子が良くなった、ありがとう」とお客様が父に言っているのを子供の頃から見ていて、いつか自分もそうなりたいと思っていました。

栗野

それを店頭で直接伝えられるということも、オフラインの買い物の醍醐味ですね。今日はありがとうございました。では、また1ヵ月後に!

FOOTWORKSの店主森さんが設計し靴職人が製作するビスポークの靴
森さんが設計し靴職人が製作するビスポークの靴。「革靴も健康のために履いてほしいということですね」と栗野さん。

インソールをオーダーメイドで。“インソール”の概念を変える〈FOOTWORKS〉