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山口一郎さんを刺激する、 アートブックショップ。恵比寿〈POST〉

東京・恵比寿の住宅街に、写真家や建築家、スタイリストに古物商など、目利きが通う海外アートブック専門店〈POST〉がある。出版社一つに焦点を当てるユニークな棚作りで、新刊も古書もボーダレスに紹介。しかも扱う本は定期的に総入れ替えする。そんな店を頼りにしているのがミュージシャンの山口一郎さん。店主の中島佑介さんとは同世代だ。

本記事も掲載されている、BRUTUS『信頼できる店の探しかた』は、2023年4月1日発売です!

photo: Tetsuya Ito / text: Masae Wako / styling: Shinichi Mita(KiKi inc.) / hair&make: Chisato Kou

ミュージシャンの山口一郎と店主の恵比寿、POSTの中島佑介
左から、中島佑介さん、山口一郎さん。

中島佑介

初めて会ったのは2016年。インテリアデザイナーの片山正通さんが、一郎さんを連れてお店に来てくれたんですよね。「2人を会わせたかったんだよ!」って。

山口一郎

僕が覚えているのは、とにかくカルチャーショックを受けたこと。本の見方が変わりました。それまで、本の価値は書かれている内容にあると思っていたのですが、装丁にも造本にも紙の感触にも意味があり、作者の「考え方」がこもっているんだ、と。それはもう、僕にとってまったく初めての概念で。

ミュージシャン 山口一郎

中島

作者の考え方がこもっている、つまり、本全体で作家性を表現していることが、アーティストの作品集や図録、ZINEも含めた「アートブック」の大きな特徴だと思うんです。情報メディアとしてはウェブの方が断然速い。

でも、それとは違う価値……例えば印刷の美しさや、本をめくることで際立つレイアウトなど、ものとしての説得力を持つアートブックが増えている感触もありますね。

山口

だからなのかな、店に来て本を手に取って、触ったりページをめくったりしながら選ぶ行為に、大きな意味がある気がするんです。

中島

そうです、そうです。三次元的な読書体験を伴うからこそ、記録されているもの以上の世界が広がる。それも僕が思うアートブックの定義。

恵比寿POSTの店主、中島佑介

山口

不思議なのは、同じ本をインターネットで見つけたり、初めての本屋で見てパラパラ眺めたりしたとしても、感動しないんだろうなと思えること。中島さんの説明があって初めて、自分が知らなかった考え方やものの価値を知れるというか、自分の価値観を壊してもらえるのが楽しくて通っているんだと思います。

中島

書店ってあまり接客しない業種だと思いますが、僕は接客が好き。だから「本を出版社くくりで紹介する」という、来てくれた方がちょっと解説を聞いてみたくなる設定にしていますし、説明したりプラスアルファの情報を伝えたりすることで、相手の価値観やものの捉え方が変わることにワクワクするんです。

中島

実は一郎さんが来たら見せようと思っていた本があるんです。昔のレコードジャケットに、無名のアーティストが手を加えて好き勝手にカスタマイズしてて……。

中島さんのおすすめ本。元写真は1980年のヒット曲のレコジャケ。

山口

何これ、めっちゃ面白い!

中島

でしょ?ほかのページも有名なポートレートに眉毛や鼻毛を描き足すとか、もはや教科書の落書き。

山口

こういう時の中島さん、僕が中学時代に通っていたレコード屋の店長に似てるんですよ。店に行くと、「いいのが入ったんだよー」ってうれしそうに見せてくれる感じがね。

ミュージシャンの山口一郎と店主の恵比寿、POSTの中島佑介
恵比寿の住宅街にある小さな書店。店名は“ポストモダン”などと同様の「次の」という意味。ウィンドウの赤い文字は本に関する格言。
山口さん/ニット53,900円、パンツ39,600円(共にシュタイン/エンケル TEL:03-6812-9897)、その他本人私物