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アーヴィング・ペン、ロバート・メープルソープ etc. 写真家は花をどのように写真に撮ってきたか

花はいつの時代も写真家たちにインスピレーションを与え、それを見る私たちにも花の見方を教えてくれていた。写真集専門書店〈book obscura〉店主の黒㟢由衣さんと一緒に、名作写真集とその変遷を辿ろう。

Photo: Kazuyoshi Aoki / Text: Nao Amino

花、広くは植物にまつわる写真集を知るにあたって、すべての始まりのような一冊がある。「カール・ブロスフェルトが1928年に出版した『Urformen der Kunst(芸術の原型)』です。植物学者でもあった彼は、採取したその場ですぐに布を置いて、芽や茎のクロースアップで、自然の形の美しさを伝える写真を撮っていました」と黒㟢由衣さん。

その後、写真家たちが取り組んだのが、花や植物の造形美を伝えるための写真だった。「1『Flora』では光と影の演出によって、アートとして写真を作り出しました。それが2『Flowers』や3『Flowers』にも続きます」

1970年代後半からアメリカのニューカラー写真の出現によって、写真家たちは身の回りの日常に目を向けるように。「60〜80年代に撮影されたジョエル・マイロウィッツの『Wild Flowers』のような名作も。

それまで、写真家たちは美しい花を美しく撮っていましたが、5『Hackney Flowers』では花は枯れても美しく、7『BROKEN FLOWERS』は摘んできた野草でも素敵だと思わせてくれる、写真家の感性がすごいですよね。8『Flowers and Fruits』ではヌードを撮りながら、花と同様にどう生きるかと向き合っている。美しさを極めてきた花の写真から、美しさだけが正義ではないことが見出されてきたことに、時代の変遷を感じます」。

時を超えて、花と写真家の密なる関係は続く。

1. イモージン・カニンガム『フローラ』

花や植物がクロースアップで切り取られているモノクロ写真による一冊。「1910〜20年代には自宅の庭の植物を撮っていて、1923〜25年にはマグノリアの花の研究をしていたほどの花好きです。彼女はブロスフェルトの植物写真に共感しながらも、光と影を使うことを考えました。花をまるでポートレートのように捉えた美しさがありながら、研究資料としても重要な写真です」。Bulfinch刊。

2. アーヴィング・ペン『フラワーズ』

花といえばまずこの写真集が思い浮かぶ人も多いのでは。「花の一番きれいな角度を知っていて、写真家の目の素晴らしさに気づかされます。ペンはアートディレクターをしていて、ブツ撮りから写真の道に入りました。これは1967〜73年の期間に『VOGUE』のクリスマス号で撮られた写真を一冊にまとめたものです。花のグラデーションにもすごくこだわりを感じますね」。Harmony Books刊。

3. ロバート・メープルソープ『フラワーズ』

花の存在感とその美しさが際立つ、1977〜89年に撮影された作品群。「花を花瓶に入れて撮っているのが特徴です。彼はエイズと闘いながら、晩年になればなるほど写真がすごく静かになっていくんですよね。1989年に亡くなる直前まで撮り続けたこれらは、美の究極を知り、命の美しさをわかっているからこそ写せた写真で、見ていると切ない気持ちにもなります」。SCHIRMER/MOSEL刊。

4. ロン・ヴァン・ドンゲン『エフサス』

写真家はベネズエラ出身。幼少期をオランダで過ごし、米・ポートランド在住。1999年に最初の写真集『Alba Nero』を出した後も継続的に花を撮影し続けている。「自宅の庭で種から育てた花を採取してすぐ、家の中のスタジオで大判カメラでクロースアップで撮影しています。4冊目の本書でいきなりモノクロからカラーになったのですが、ディテールの描写に驚かされます」。Nazraeli Press刊。

5. スティーブン・ギル『ハックニー・フラワーズ』

「作家が当時住んでいたイギリスのハックニー地区で撮ったスナップ写真に、そこで拾ったものを置いて再撮影しています。まさに地産地消ですね。また枯れてしまったり、拾ってきたゴミとかと一緒に撮っているのに、美しいと思わせてくれるのはすごいですね」。時には写真を土に埋めたり、花やゴミなどを写真に載せてコラージュのようにあしらう、遊び心があふれる一冊。Nobody刊。

6. 鈴木理策『サクラ』

「雪を撮った『White』と対になるこの『SAKURA』は、みんなが桜を撮る中で一番印象に残る桜。桜を見る時は手前と花の細部両方見たいですよね。カメラのピントのように、人間もピントを合わせて見ていることに気づかせてくれます。印象派の絵画を見ているようでもあり、その時の感情や情景が説明されていて、写真だからこその面白さにも出会えます」。edition. nord刊/¥6,050。

7. ヤンヌ・グラボウスキー『ブロークン・フラワーズ』

ドイツの写真家であり、編集者である著者が、散歩の途中に息子と公園などで摘んだ野に咲く花を写した本作は、素朴な草花が魅力的に写されている。「猫じゃらしってこんなに可愛かったのかとか、花屋さんに売っている花でなくても、どんな花でも美しいんですよね。時間が経って萎れたり色が朽ちてきた花もまた美しい。それにフラッシュを使っているのも面白いです」。JB. Institute刊。

8. リン・チーペン(林志)a.k.a. No.223『フラワーズ・アンド・フルーツ』

抑圧された中国の若者たちをみずみずしく写すリンによる、ヌードとともに花や果実が写った写真が集められた一冊。「人間と花を重ね合わせて撮っているのですが、中国では検閲が厳しいため、日本の出版社から刊行されました。ヌードではありますが、エロスよりも生命を感じます。瞬間的に輝く若さやその喜びが、花の生命力あふれる美しさとも通じています」。T&M projects刊/¥4,840。