案内人:宮川純(ピアニスト)、MELRAW(サックス奏者)、石若駿(ドラマー)
若き日の3人を鍛えたエネルギー渦巻くパワースポット
MELRAW
オレが上京した2012年、開店したばかりの〈Electrik神社〉で駿と出会ったんだ。ベーシストのゴトウカツオミさんがリーダーを務めたエレクトリック神社バンドに参加して、それから毎週通っていた。神社バンドとは別日にフリューゲルホーン奏者兼ボーカリストのTOKUさん主催のイベント『Toku's Lounge』にも顔を出してみたんだ。その日のホストバンドが(宮川)純兄と駿。そこに海外から一時帰国していた寺久保エレナと中島朱葉、それに中山拓海とか同世代アルトサックス奏者が勢揃いしていて。
石若駿
10年くらい前、(常田)大希のソロ、Srv.Vinciのリリースパーティもやったね。
MELRAW
当時からTOKUさんが海外のミュージシャンと共演後、みんなを連れて〈神社〉へ来る流れがあったよね。
宮川純
故ロイ・ハーグローヴも来ていて、何回もセッションしたな。
石若駿
ある晩、ロイとRHファクターのメンバーが全員集合し、セッションが始まって。(江㟢)文武が観ていて、嬉しかったな。
板垣賢志
すごく若い連中がライブをやっている時に、ロイが来たことがあって。プロならスルーするところ、ロイは平気で入っていくんだよね。ドキュメンタリー(『ロイ・ハーグローヴ 人生最期の音楽の旅』)で、ロバート・グラスパーも同じようなことを証言していてさ。
宮川
いい若手を探していたのか。
板垣
逆にジャズの面白さを伝える使命感だったのかもね。
宮川
学校では習えない、生々しい体験だった。改めて感謝します。

石若
康平(MELRAW)は、いいセッションが鳴っている〈神社〉の状況を“渦巻いている”と表現するね。
MELRAW
世代やジャンル、国籍を超えたミュージシャンたちが、ごちゃ混ぜになり、即興セッションを繰り広げて、そのエネルギーが店に充満する。オレたちが駆け出しだった頃、〈神社〉に集まる先輩ミュージシャンたちは、みんなすごくて。若手もなにか爪痕を残せるよう、必死で音を出していたよね。
石若
渦巻く演奏が非日常的で。夜中に音楽が生まれる特別な場所です。
板垣
自分では非日常とは思っていない。これこそが日常だと思ってやっている。ヒップなことは、普段の生活の中から生まれるんだよ。
石若
ヒップいただきました(笑)。
MELRAW
賢志さんの“ヒップとは?”という問いに、ものすごく襟を正されて音楽をやっているんです。スタンダードをあえて演奏する『ジャズ研』というイベントをやった時、賢志さんから「懐古趣味もいいけど、どんなフィールドにいても、今を生きるお前らが出している音がジャズなんだから。今やっている音楽がジャズなんだ!」と言われて。
宮川
すごく勇気をもらう言葉だね。
ヒップな音楽家の演奏は、ジャズになっていく
石若
じゃあ、ヒップな音楽って?
板垣
一番新しいものに魅力を感じる。マイルスとか散々聴いてきたから、愛しているけど、それを伝えるのは、オレの役目じゃない。〈神社〉なら駿や康平の新作をかけたいし、そういう意味では、純が参加しているLAGHEADSとHIMIの「だきしめたいよ」とか最高だったね。
宮川
HIMIはナチュラルだけど、強烈に人の心を掴(つか)む華がある。
板垣
大晦日に五十嵐一生さんのライブがあって。すごく長くてすさまじいセッションで、お客さんも“なんじゃこりゃ?”と呆然としながらも熱心に聴いていたんだ。ジャンルじゃなくて、とにかくエネルギーのある音楽に惹かれるね。
宮川
大規模なライブで演奏しているけど、綿密に準備して臨む分、音楽家としての素を出す瞬間は多くない。逆に〈神社〉でのセッションなんかは、演奏力はもちろん、瞬発力、判断力など、真のプレーヤー的能力が試される。だからこそ、ジャズクラブでの演奏は絶対やめられないライフワーク。
MELRAW
自分を解放できる場所かな。次にここでやる時、1曲ずつ書き下ろしてくるというのはどう?
石若
面白いね!やろう!

3人が選ぶ〈Electrik神社〉を象徴する3枚
ギタリストの作品。「開店当時の〈神社〉の常連だった先輩たちが参加したドリームチーム的録音。この作品の曲を演奏するところから僕もお店との関係が始まった」(MELRAW)
2023年発表のEP。「彼女のEP『A Part of Me』を〈神社〉で聴き、共演をオファーしたのがきっかけで、作品やライブのプロデュースをさせてもらうようになりました」(宮川)
〈神社〉のヘビーローテーション作。「トランペッターの一生さんと、初めてレコーディングした作品。収録曲の『New Neuron』は、ここでは毎回演奏しています」(石若)