東京のジャズが生まれるセッションの聖地、六本木〈Electrik神社〉。エネルギー渦巻くパワースポット

東京の新しい音は、ミュージシャンが切磋琢磨し、即興で音が紡がれていくジャムセッションから生み出されている。日本のジャズシーンを牽引するMELRAW、宮川純、石若駿の3人が、セッションの聖地に大乱入?!店長・板垣賢志さんによる招聘(しょうへい)でジャンルを超えた音楽家が集まる〈Electrik神社〉。噂は海外にも知れ渡り、来日アーティストが訪れ、演奏することも多い。

初出:BRUTUS No.1002「JAZZ is POP!!」(2024年2月15日発売)

photo: Naoto Date / text: Katsumi Watanabe

案内人:宮川純(ピアニスト)、MELRAW(サックス奏者)、石若駿(ドラマー)

若き日の3人を鍛えたエネルギー渦巻くパワースポット

MELRAW

オレが上京した2012年、開店したばかりの〈Electrik神社〉で駿と出会ったんだ。ベーシストのゴトウカツオミさんがリーダーを務めたエレクトリック神社バンドに参加して、それから毎週通っていた。神社バンドとは別日にフリューゲルホーン奏者兼ボーカリストのTOKUさん主催のイベント『Toku's Lounge』にも顔を出してみたんだ。その日のホストバンドが(宮川)純兄と駿。そこに海外から一時帰国していた寺久保エレナと中島朱葉、それに中山拓海とか同世代アルトサックス奏者が勢揃いしていて。

石若駿

10年くらい前、(常田)大希のソロ、Srv.Vinciのリリースパーティもやったね。

MELRAW

当時からTOKUさんが海外のミュージシャンと共演後、みんなを連れて〈神社〉へ来る流れがあったよね。

宮川純

故ロイ・ハーグローヴも来ていて、何回もセッションしたな。

石若駿

ある晩、ロイとRHファクターのメンバーが全員集合し、セッションが始まって。(江㟢)文武が観ていて、嬉しかったな。

板垣賢志

すごく若い連中がライブをやっている時に、ロイが来たことがあって。プロならスルーするところ、ロイは平気で入っていくんだよね。ドキュメンタリー(『ロイ・ハーグローヴ 人生最期の音楽の旅』)で、ロバート・グラスパーも同じようなことを証言していてさ。

宮川

いい若手を探していたのか。

板垣

逆にジャズの面白さを伝える使命感だったのかもね。

宮川

学校では習えない、生々しい体験だった。改めて感謝します。

ピアニスト・宮川 純、サックス奏者・MELRAW、ドラマー・石若駿
ハービー・ハンコックの「Butterfly」を演奏した後、板垣さん(右端)の用意したお酒とフムスと自家製ピタパンなどのオリジナルフードを堪能。〈Electrik神社〉での3人によるイベントを熱望します。

石若

康平(MELRAW)は、いいセッションが鳴っている〈神社〉の状況を“渦巻いている”と表現するね。

MELRAW

世代やジャンル、国籍を超えたミュージシャンたちが、ごちゃ混ぜになり、即興セッションを繰り広げて、そのエネルギーが店に充満する。オレたちが駆け出しだった頃、〈神社〉に集まる先輩ミュージシャンたちは、みんなすごくて。若手もなにか爪痕を残せるよう、必死で音を出していたよね。

石若

渦巻く演奏が非日常的で。夜中に音楽が生まれる特別な場所です。

板垣

自分では非日常とは思っていない。これこそが日常だと思ってやっている。ヒップなことは、普段の生活の中から生まれるんだよ。

石若

ヒップいただきました(笑)。

MELRAW

賢志さんの“ヒップとは?”という問いに、ものすごく襟を正されて音楽をやっているんです。スタンダードをあえて演奏する『ジャズ研』というイベントをやった時、賢志さんから「懐古趣味もいいけど、どんなフィールドにいても、今を生きるお前らが出している音がジャズなんだから。今やっている音楽がジャズなんだ!」と言われて。

宮川

すごく勇気をもらう言葉だね。

ヒップな音楽家の演奏は、ジャズになっていく

石若

じゃあ、ヒップな音楽って?

板垣

一番新しいものに魅力を感じる。マイルスとか散々聴いてきたから、愛しているけど、それを伝えるのは、オレの役目じゃない。〈神社〉なら駿や康平の新作をかけたいし、そういう意味では、純が参加しているLAGHEADSとHIMIの「だきしめたいよ」とか最高だったね。

宮川

HIMIはナチュラルだけど、強烈に人の心を掴(つか)む華がある。

板垣

大晦日に五十嵐一生さんのライブがあって。すごく長くてすさまじいセッションで、お客さんも“なんじゃこりゃ?”と呆然としながらも熱心に聴いていたんだ。ジャンルじゃなくて、とにかくエネルギーのある音楽に惹かれるね。

宮川

大規模なライブで演奏しているけど、綿密に準備して臨む分、音楽家としての素を出す瞬間は多くない。逆に〈神社〉でのセッションなんかは、演奏力はもちろん、瞬発力、判断力など、真のプレーヤー的能力が試される。だからこそ、ジャズクラブでの演奏は絶対やめられないライフワーク。

MELRAW

自分を解放できる場所かな。次にここでやる時、1曲ずつ書き下ろしてくるというのはどう?

石若

面白いね!やろう!

六本木〈Electrik神社〉店内

3人が選ぶ〈Electrik神社〉を象徴する3枚

『Meant to Be』吉田サトシ
ギタリストの作品。「開店当時の〈神社〉の常連だった先輩たちが参加したドリームチーム的録音。この作品の曲を演奏するところから僕もお店との関係が始まった」(MELRAW)
『甘い予感』大和田慧
2023年発表のEP。「彼女のEP『A Part of Me』を〈神社〉で聴き、共演をオファーしたのがきっかけで、作品やライブのプロデュースをさせてもらうようになりました」(宮川)
『Ballads of a sullen horn man』五十嵐一生
〈神社〉のヘビーローテーション作。「トランペッターの一生さんと、初めてレコーディングした作品。収録曲の『New Neuron』は、ここでは毎回演奏しています」(石若)

東京のジャズが生まれるセッションの聖地、高田馬場〈JazzSpot Intro〉。登竜門にして最終地点

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