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東京のジャズが生まれるセッションの聖地、高田馬場〈JazzSpot Intro〉。登竜門にして最終地点

東京の新しい音は、ミュージシャンが切磋琢磨し、即興で音が紡がれていくジャムセッションから生み出されている。日本のジャズシーンを牽引するMELRAW、宮川純、石若駿の3人が、セッションの聖地に大乱入?!3人がジャズセッションを学んだという〈JazzSpot Intro〉で演奏。マスターの茂串邦明さんに、若かりし3人の思い出から、セッションの真髄を教えてもらった。

photo: Naoto Date / text: Katsumi Watanabe

案内人:宮川純(ピアニスト)、MELRAW(サックス奏者)、石若駿(ドラマー)

ここは東京のジャズの登竜門にして、最終地点

石若駿

2008年くらいかな、高校生の頃、初めてのジャムセッションに参加したんです。当時のホストの人たちはめちゃくちゃ厳しかった。

MELRAW

オレも駿に紹介してもらって、〈Intro〉へ出入りするようになった。確かにみんな強烈だった。

石若

ピアノは菊池太光さんと若井優也さん、石田衛さん。ドラムに福森康さん、ベースが織原良次さん。

茂串邦明

先輩にボロクソ言われ、泣いて帰ったこともあったね(笑)。

石若

彼らに言われて、泣いたことはなかったんですけどね(笑)。たくさん厳しい先輩がいたと思います。まだジャズのスタンダードについて何も知らなくて。本当に悔しかった。そんな先輩たちから、ジャムセッションはスタンダードの曲をベースにしながら、その場の即興セッションで作っていく音楽だと教えてもらって。今でも貴重な経験だと思っています。

茂串

“良い意味で”イジメたくなったんだろう(笑)。

宮川純

先輩の理不尽な注文に、叩き上げてもらったことが、礎になっていると思う。出る杭こそ打とうとする先輩と争ってきた集積かも。

MELRAW

打って凹ませるだけじゃなく「もっとハミ出してこい!」と、喝を食らわされている感じ。

茂串

へたでもいいから「ステージに立つなら、死ぬ気で面白いことをやってみろ!」って話だよ。

ピアニスト・宮川 純、サックス奏者・MELRAW、ドラマー・石若駿
マスターの茂串さん(右端)が経営する〈Café Cotton Club 高田馬場〉にも、3人の思い出が詰まっている。

個性と創造性を発揮して、常識を壊してこそジャズ

MELRAW

〈Intro〉のジャムセッションにはプロアマ、国籍やキャリアなど関係なく、多くのミュージシャンが集まって。茂串さんから「次はお前とあいつでなんかやれ!」と声がかかり、そのメンバーと相談して演目を決める。実は人選をめちゃくちゃ考えてくれていますよね?

茂串

適当に決めるんだよ。

宮川

いやいや(笑)。メンバーのレベルや楽器編成を鑑みて、順繰りでやってくれています。ただ、たまに順番を飛ばして「ここはお前がやれ!」という時もありますね?

茂串

お手本を見せないと。今日も3人でチャーリー・パーカー「Confirmation」とセロニアス・モンク「Straight, No Chaser」を演奏してくれたけど、さすがの演奏だったよ。

MELRAW

アマチュアの人がプロとセッションすると、いきなりレベルが引き上がる。どんどんうまい人に寄っていく効果があるようですね。

茂串

お前らが仕切るなら、誰だっていい音楽を演奏したいと思うだろ?そうすると120パーセントのパワーが出たりするんだよ。

宮川

セッションの魅力ですね。馴れ合いの演奏ではない。

茂串

最近の若い人は、フレーズも勉強し、技術だってすごい。そのうえで「じゃあ、てめえのオリジナリティとクリエイティビティはどこにあるんだ?」と問いかけている。ジャズの一番大切なところだから。しかし、さっき3人のジャムを聴いたら、頭から典型の殻をぶち破っちゃうんだから驚いた。演奏がうまいだけじゃなく多分イカレてるね(笑)。

宮川

なんか、安心した(笑)。20代になって〈Intro〉へ出入りし始め、いろいろ経験を積んだ今でも、ここに来ると変わらず「面白いことやってみろよ!」と言われて。緊張するけど、なんか心地いい。

茂串

みんなが頑張っているから、世界中から「今、日本のジャズクラブで、なにかが起こっているのか?」と察し、物好きが聴きに来るんだ。誇らしいことじゃないか。

MELRAW

今のオレらはいろいろな仕事をしているけど、ジャズに根差しているからこそ、ポップスやロックもできると思う。〈Intro〉で培ったことが、日本の音楽シーンを支えていることを伝えたいと思います。

高田馬場〈JazzSpot Intro〉店内
撮影日はベーシストの冨樫マコト(写真奥・右端)がホストを担当。

3人が選ぶ〈JazzSpot Intro〉を象徴する3枚

『Duke Ellington & John Coltrane』Duke Ellington & John Coltrane
1962年録音の共演盤。「コロナ規制緩和後、駿と行った〈Intro〉で、1曲目『In a Sentimental Mood』を演奏したのが、最近の最もエピックな時間の一つです」(MELRAW)
石田衛『Afterglow』
『Afterglow』石田衛
〈Intro〉でセッションホストを務めるピアニストのトリオ作。「研ぎ澄まされたピアノタッチや、次世代を牽引するドラマー中村海斗の参加。見逃せない一枚」(宮川)
『Live at the Lighthouse』Lee Morgan
1970年録音のトランペッターのリーダー作。「店長のゴッド井上さんがDJで選曲する、ジャズの好きなところが詰まった作品。ミッキー・ローカーのドラムが最高」(石若)