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祖父ゆかりの場所を、新しい活動拠点に。北海道で40年かけて育んだ環境を受け継ぐ

朝目覚め、ベッドで日の光に包まれる。手間をかけてランチを作り、丁寧に淹れたコーヒーで小休止。家にいる時間は最高の贅沢だ。リビング、キッチン、ベッドルーム、レコードや本、家具と道具、住む場所と機能。いつもより長く家にいられるのだから、家について、ライフスタイルについて考えてみる。

Photo: Tetsuya Ito / Text: Tami Okano

祖父が愛し見出した白樺の森で
四季と共に生きる

アートディレクターで写真家としても活躍する前田景さんの祖父・前田真三は、日本の風景写真の第一人者。ここ美瑛の田園風景の美しさを一躍有名にした人として知られる。

アートディレクター、写真家・前田真三の写真ギャラリー〈拓真館〉
景さんがリニューアルを考えている前田真三の写真ギャラリー〈拓真館〉。90年代には道外からも多くの訪問者を集めた一大観光地だった。鉄筋コンクリート造の2階建て。今も4月中旬から1月中旬まで開館している。

1970年代に撮影旅行で訪れて以来、美瑛町に足繁く通い、87年には廃校になった小学校を改造したフォトギャラリー〈拓真館〉を開設。敷地は1万㎡余りで、2500本の白樺を植樹した〈白樺の回廊〉など、周辺の環境整備も行った。

祖父ゆかりのその場所に東京から移住したのは1年ほど前のこと。妻で料理家のたかはしよしこさんと共にここを「新たな活動拠点」にしようと決めた。

景さんは言う。「ちょうど娘の小学校入学のタイミングで、子供が育つ環境として美瑛がいいと思ったのが理由の一つですが、遡れば、ここで結婚式を挙げた12年前から、この場所を何とかしなければ、と思っていたんです。

建物は古くなってきているし、敷地の管理も誰かが主体的にやらないと続かない。家は、祖父のアトリエを改修。拓真館はまだ手つかずですが、今は祖父の代から残っている平屋の元教員住宅を、よしこの2つ目のレストランへと改装中です」

アートディレクター・前田景、写真家・たかはしよしこ 夫婦 自宅 リビング
前田景さんの祖父、前田真三が使っていた木造2階建てのアトリエを全面改修した住まい。リビングに敷き詰めたラグは、妻のたかはしよしこさんのコレクション。砂時計みたいな形のスツールはアルマ・アレン。

よしこさんは、東京の西小山でフードアトリエ〈S/S/A/W〉を営んできた。明るくフレンドリーな人柄もあって、彼女を慕う「おいしいもの好き」の仲間は多い。

「東京での生活は楽しかったから、移住したら寂しくなると思ってたけど、限られた時間の中で会って食べて忙しく別れるしかなかった友人とも、ここではゆっくり、時間を忘れて話ができる。移住してからの方が、仲間との気持ちの距離は近くなった気がします」

今は道央の食材に触れ、四季折々、食を通じてこの場所を知っていくのが楽しい、とよしこさん。

景さんは移住後の1年を通し、住んでいても見ることができるのは奇跡としか思えない美瑛の「一瞬の風景の美しさ」に、改めて胸を打たれたという。

ここで始まる新しい〈S/S/A/W〉のディレクションにも、その思いを込める。