Eat

Eat

食べる

クリームパンは、ずっしり派?ふんわり派?パン通が11種を食べ比べ

元祖〈新宿中村屋〉に代表される懐かし系から、国産小麦を使った前衛系、ふわふわ生地にたっぷりカスタードクリームの売れ線系まで。令和時代のクリームパンは実に多彩。パン通の2人がクリームパンをおすすめ&食べ比べ。そして、奥深いクリームパンの世界をマトリックスで分析します。

photo: Kenya Abe / text: Chisa Nishinoiri / food: Haruka Kimura

クリームパンの誕生は明治37(1904)年。〈新宿中村屋〉創業者である相馬愛蔵・黒光夫妻が、初めて食べたシュークリームのおいしさに驚き、このクリームをあんパンのあんの代わりに入れてみようと思いついたのが始まり。

あんパンよりも高級感があり、また現代ほど食生活が豊かでなかった時代、卵や牛乳を使ったクリームパンを食べて子供たちに少しでも栄養価の高いものをとってもらいたいという親心があったという。

クリームパンといえば、あのグローブ形。しかし売り出した当時のクリームパンの記録を見ると切れ目のない“柏餅形”。その後、「あんを詰めたパンは発酵段階で中に空洞が生じてしまうことがあり、お客様に損したような感じを抱かせてしまう。そこで空気抜きとして切れ目を入れた結果、見た目がグローブ形になった」という歴史がある。以来、日本人のDNAに、グローブ形のクリームパンが刻まれていくのです。

ブレッドジャーナリスト・清水美穂子、パンの研究所〈パンラボ〉主宰・池田浩明
左/清水美穂子(ブレッドジャーナリスト)、右/池田浩明(パンの研究所〈パンラボ〉主宰)

池田’s selection「あると嬉しいゴクゴク感」
クリームパンのアイデンティティは、パン生地のおいしさに表れる。おいしい生地にクリームが合わさった時の、もっと高みへ行くぞ!という職人の心意気を感じさせるチョイス。

清水’s selection「クリームパンは、喉越し重視」
クリームパンといえば、やっぱりクリームたっぷりのグローブ形が原体験。ふわふわなんだけどずっしり重たいのが、すごく嬉しかった。今回は個性を重視した幅広いラインナップ。

パンとカスタード、両者のハーモニーで味わう

清水美穂子

グローブ形のクリームパンってコンフォートフードですよね。懐かしさという旨味に、今は国産小麦など素材のおいしさが加わって味がグレードアップしている。最近は生地もクリームもしっとりして一体感があるのが特徴。

池田浩明

僕はクリームパンは重量感が大事だと思います。今業界は全体的にパンの加水が多くなってきているので、生地はしっとり&もっちり傾向にありますね。

清水

まずは基本の〈新宿中村屋〉のものを食べてみましょう。

池田

昔ながらの菓子パンという感じで、万人に好かれる味わいですね。

新宿〈スイーツ&デリカ Bonna/新宿中村屋〉元祖クリームパン
〈スイーツ&デリカ Bonna/新宿中村屋〉元祖クリームパン
明治37年生まれ、これぞ元祖。おいしくて栄養価の高いパンを、という創業者の思いを受け継ぎ現在に至る。しっとりした生地に、滑らかな口当たりの黄色いカスタードクリームがたっぷり。216円。

清水

〈みんなのぱんや〉は“昔ながら”がコンセプトですが、素材が現代版に超バージョンアップしてる。

池田

高級クレーム・パティシエールな味わい。生地の熟成が効いているのでより素材の旨味を濃く感じる。

清水

〈コモレビ〉も見た目は王道ですが、歯切れがすごく良いですね。

池田

使っているのは北海道産小麦粉の「春よ恋」。国産小麦でこの歯切れ感を生み出せるのは職人技。

清水

クリームとパンが一緒に溶けていく一体感がいいですね。〈アンジェリックベベ〉もどこまでがクリームかわからないほど、生地との一体感、喉越しがすごいんです。

池田

あまりにも口溶けが良くて、パンが存在を消している。でも生地がまったく姿を現さないわけじゃない。焼き目の香ばしさがしっかりあり、最後にちゃんと生地の味が残る。

清水

〈パーネ・エ・オリオ〉はヨーグルトのような風味がありますね。

池田

パネトーネ菌のヨーグルト感があり、ほんのりオレンジの香りもする個性派。〈プリンチ〉は同じイタリアでも全然違いますね。日本のクリームパンにはない食感が面白い。

清水

ずっしりなのにふわふわエアリーな食感が特徴的です。

池田

両方の印象を感じるのは生地の気泡が多く、気泡膜が厚いから。そして発酵が上手。リッチな素材を使うとしつこくなりがちですが、これほど軽やかに仕上げるのはすごい。

清水

〈ナンバーフォー〉も懐かしい形ですが、生地はもちもちでクリームの卵味を感じますね。

池田

クリームはプリンとし、生地はプルプルッ。これはプリンプリン系と呼ぶべき新しい領域。咀嚼(そしゃく)するほどに後から甘さが押し寄せます。

清水

〈ティエリー マルクス ラ ブーランジェリー〉もクリームの色が濃く、卵感が半端ない。

池田

でも味わいはとてもあっさり。

清水

日本の菓子パンへのリスペクトを感じますね。日本発祥のクリームパンとフレンチが融合して、発酵バターの味わいにフランスの魂を感じます。逆に〈ブラン〉は、フランスパンのように生地がリーン。

池田

生地は噛むほどに生地の甘さが出てきて表情が変化します。最初はパンが強い印象ですが、咀嚼するほど波長が合ってきて、クリームとのハーモニーが生まれる。

清水

〈ビーバーブレッド〉も、小麦感が強くて生地がすごくおいしい。

池田

ゴムみたいに引っ張ってちょっとじらしてから、一気にパチンと切れるゴムパッチン的な歯切れが面白い。強く焼いているので皮の存在感、香ばしさもあるのに、クリームとの口溶けが圧倒的。

清水

一体感を追求した他店に対し、〈コントラスト〉は店名通りのコントラスト感を打ち出しています。

池田

オールカスタードだと多分重くなる。そこにホイップクリームが加わることで浮遊感が生まれますね。

清水

それぞれが目指す方向に進化しているのを実感します。パンやクリームの質感とバランス、アクセントとなる香りや食感がみんな違って面白かったです。

池田

みんなそれぞれのクリームパンの原風景を持っていて、それを自分の解釈で落とし込んでいる。クリームパンを食べると、パンとクリームともに主役というのがよくわかる。生地もコーラスの一部。両者の息が合ってこそ、美しいハーモニーを生み出すんですよね。

マトリックス表で見るクリームパン分布

縦軸をパン生地とし、上に行くほど生地は軽く、ふんわり食感。下に行くほど小麦を感じるずっしりとした味わいに。横軸はカスタードクリームの濃淡を表し、右に行くほどあっさり軽やか、左に行くほど卵感を感じるリッチで濃厚な味わい。

懐かし系

クリームパンの元祖〈新宿中村屋〉を基準とする味わい。パンはふんわり軽やかで、カスタードは素材の味より甘味が立つあっさり系。

売れ線系

バターの風味が香る軟らかふんわり生地に、濃厚なカスタードクリームがたっぷり詰まったタイプ。いわゆる万人に受けるおいしさ。

前衛系

国産小麦など上質な素材を使い、職人技でパンの旨味をとことん追求。合わせるカスタードにも個性が表れる前衛系が集う。

クリームパン分布のマトリックス表