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食べる

日本一コスモポリスな港町へ。“食べに行ける外国”のある町、神戸 〜前編〜

明治時代からの洋館が立ち、日本三大中華街の一つを擁する。そして実はかつて、日本一大きなインディアンコミュニティが形成されていたという。港町・神戸は、多くの人に開かれた、懐深いおいしい国際都市。その開かれた精神は、現在も健在です。

photo: Satoshi Shiozaki / text: Keiichi Tanaka, Ryoko Sato, Kaori Funai

港町の日常に根づいた世界各地の“故国の味”

1868年の開港以来、多くの外国人が暮らしてきた神戸。在住外国人のための居留地以外に、街なかにほかの開港地にない「雑居地」が設けられたことで、神戸の日常生活には、海外の文化が受け入れられる素地ができた。

かつて香港、広東などからの華僑が集住した今の南京町や、関東大震災後に、真珠商や貿易商を営むインド人が移り住んで形成した日本最古のインディアンタウン・北野。市内にはイスラムモスクやジャイナ教寺院があり、当時の外国人街の名残が色濃く残る。

それゆえ、今も神戸に暮らす各国の人々が営む食材店や専門料理店も数多く点在。近年は東南アジアや中南米など、お国柄も多彩さを増している。その中には、本国人の常連のみならず、今や地元の人々にとっても“お馴染み”として愛される店も少なくない。外食を楽しみに出かけるのはもちろん、珍しい食材や調味料などが、普段の食卓に登場するのは神戸の日常だ。

舶来の食でいえばパン、洋菓子の印象が強い土地だが、この港町にゆかりを得た人々の“故国の味”にこそ、神戸を訪れる楽しみがあるともいえよう。

圓記

多彩な点心と、活気に満ちた、香港料理

上海料理の老舗〈新愛園〉の姉妹店として2015年にオープン。もうもうと上がる湯気や油の爆ぜる音、飛び交う広東語は、まさに香港の食堂の風景。約30種の単菜を一手に担う料理長・何耀煌さんは、香港の競技会でも受賞歴のある腕利きの点心師。

〈圓記〉調理作業

中国伝統の発酵種・老麺を使ったチャーシュー饅に、艶やかな蒸し餃子や水餃子など定番に加え、鶏足の豆豉蒸しや香港風ピロシキといった知る人ぞ知る一品も。界隈でも一等目立たぬ裏路地に潜む店は、本場の味を目当てに訪れるお客で連日賑わう。神戸で近年急増中の点心専門店の先駆けでもある。

梅花

アジアの食文化が交わるペナンの一皿

各国料理店が集まる神戸で初のマレーシア料理専門店として2017年にオープン。店主の森本メイファさんが腕を振るう故郷・ペナンの味は、まさに手間暇の賜物。現地の食卓に欠かせない辛味ペースト・サンバルなどの調味料から、2時間がかりで揚げるカッチャン(ナッツ)や、イカンビリス(だしじゃこ)といった定番の惣菜まですべて自家製。

〈梅花〉店主の森本メイファ

そんな種々の惣菜を欲張りに楽しめるのが、国民食ともいえるナシ・レマだ。スパイス・ハーブの刺激と芳香が響き合う、賑やかな一皿は、多民族の食文化が交わる国ならではの醍醐味が詰まっている。

Kusum 本場家庭料理

飾らぬ味にインドの日常の食卓を体感

北野の老舗グローサリー〈インド・プロビジョン・ストア〉に併設する小さな料理店。創業者の娘にあたるティワリ・クスムさんが、およそ30年前に自宅の一部を開放して始めたインド家庭料理の店だ。今や、全国のインド料理好きの間で知る人ぞ知る存在に。

〈Kusum〉調理作業

全粒粉のチャパティに、豆のスープ・ダルやカレーが並ぶターリやサモサは、クスム家の食卓そのものだ。鮮やか、かつ穏やかなスパイスの芳香が染み入り、滋味深い。テーブルを回り、甲斐甲斐しくお代わりを促すクスムさんの姿には、インドの日常の姿が映し出されている。