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菊嶋かおり、永澤一輝(knof共同主宰)に聞いた、集合住宅を楽しむメソッド。眺望の良さと構造体を尊重する

一軒家では体験することができないものが、集合住宅にはある。眺望、利便性、サービス……。その一方で、物件としての制約が多いのも事実。与えられた条件の中で、個性溢れる住まいをつくりあげた住まい手たちに聞いた、集合住宅を存分に楽しむためのメソッド。

Photo: Norio Kidera / Text: Chizuru Atsuta

ワンフロアの中にさまざまな表情を持つ職住一体の空間。
(東京都/江東区)

菊嶋かおり、永澤一輝(knof共同主宰)

3方向に運河を望む築35年のマンション。4LDKだった住戸をワンフロアにフルスケルトンリノベーションし、自宅兼事務所としているのは建築設計事務所〈knof〉を主宰する菊嶋かおりさんと永澤一輝さん夫妻だ。

4年ほど前、独立するタイミングで物件を探し始めた。条件は“川の近く”。これまで運河の近くに住んでいたこともあるが、川があると眺望が遮られることがないうえ、風通しも良い。もともとフルリノベーションをする予定だったので、既存の間取りは無視して、配管や柱など動かせない位置だけ確認した。

建築家・菊嶋かおり 永澤一輝 夫妻 自宅 キッチンと仕事場
オフィスを兼ねるため生活感が出ないよう冷蔵庫などのキッチン家電はすべて業務用にして作業スペースの下に配置。カウンター式でバーのような雰囲気も味わえる。キッチンの奥が2人の仕事場。

「室内は一つのイメージで固めるのではなく、場所によって違って見えることにこだわりました。床材にはそれぞれコンクリート、木、タイルを取り入れ、寝室は畳にするなど、ワンフロアの中にさまざまな雰囲気を持たせ、ショールームのように機能させることも意識しました」とは菊嶋さん。

それらをつなぐように横断しているのは、大きな9枚の襖絵の建具。扉の中は洗面バスやトイレ、収納など生活に欠かせない空間になっている。永澤さんいわく「“住む”“働く”が重なり合うエリアをなるべく広く取れるように考えました。来客もあるので、水回りや収納など生活感のある要素は、すべて壁側に寄せることに。するとひとつながりの建具ができたので、ここを大きなアートにしようと着想しました」

2人がマンションにこだわったのは、立地やビューの良さもあるが、RC構造の建物で大胆なリノベーションができること。「戸建てと違い、この梁のスケールや、年月を経たテクスチャーは集合住宅でないと得られない。僕らにとって、構造体も一つの大きな魅力なんです」と永澤さん。

現在は9ヵ月の娘もおり、職住一体の空間をどのように変化させていくか実験中だという。建築家としての彼らの視点は、実体験を通して集合住宅の新しい可能性を広げてくれる。

建築家・菊嶋かおり 永澤一輝 夫妻 自宅 リビング
築35年のマンションの1室、延床面積77平米を事務所兼住宅用にリノベーション。手前からキッチン、打ち合わせスペースを兼ねたダイニング、リビング、左奥には寝室と大きなワンフロアとなっている。