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世界からお届け!SDGs通信 パリ編。既存のモノに素材としての価値を与える〈マリーン・セル〉

毎号、世界中から届いた旬の話題を紹介しているBRUTUS本誌の「ET TU, BRUTE? CITY」から出張企画。世界中の約30都市から、今一番ホットなSDGsに関する取り組みをお届けします。今回はパリから!

text: Motoko Kuroki / edit: Hiroko Yabuki

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古着やリサイクル素材からのクリエイション。〈マリーン・セル〉の「アンチファッション」とは?

2017年に若手デザイナーの登竜門、LVMHプライズを受賞した〈MARINE SERRE〉。ハイファッションの文脈で活動しながら、消費文化色の濃い服飾業界の未来を問う「アンチファッション」なアプローチを掲げている。

枕カバーの耳から作ったシャツ、古着Tシャツを繋ぎ合わせたトップ、古いフォークを使ったジュエリー。2023年現在、コレクションの約50%は中古品をアップサイクルした一点もの。それら以外も、再生プラスチック繊維でできた生地などのリサイクル素材から作られている。ブランドには素材収集チームがあり、古着や古布のセレクトから分類、洗濯までを慎重に行う。公式サイトでは、大量の古服がアトリエに運び込まれる様子や、リサイクル生地にプリント加工をする様子などを映した動画を公開している。

だがデザイナーのマリーン自身は、特段「サステナビリティ」を謳いはしない。彼女にとって、すでに存在するものを素材に服を作るのはごく自然なこと。またファッション産業において、それが当然のプロセスとなることを目指してもいるからだ。

その代わり彼女が使うのは「Regenerate」という言葉。価値を見出されなくなったモノに意味を与え、「再生」させる。それは、古いモノが持つストーリー性を感じ取り、新たなストーリーを紡いでいくことでもある。ビジネスとしては挑戦的な生産過程だが、マリーンは全てをシステム化して軌道に乗せることに成功。作品の何点かは、〈ポンピドゥセンター〉のコレクションに加えられてもいる。

どんな服を着るか。それは美的表現であると同時に、倫理の表明でもある。過去をリスペクトしながら未来を考える服──。〈MARINE SERRE〉は、循環型ファッションという言葉のもう一歩先を見せてくれる。

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