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“ファッション”を見つめ直す景色としてのファッションショー

「家族とか友人の発表会に招かれたつもりで、特別な装いでお出掛けください」とあらかじめ来場者にアナウンスされた不思議なファッションショーが、昨年さいたま市で行われた。「何か違う」そのファッションショーを演出したのは編集者の川島拓人。自ら解説してもらった。

photo: Shunki Terada,Yuki Hori / text: Takuhito Kawashima

2023年に埼玉県さいたま市で開催された第3回「さいたま国際芸術祭2023」。現代アートチーム目[mé]がディレクションした本芸術祭の特筆すべき点のひとつに、連日メイン会場である旧・市民会館 おおみやの大ホールで公開されるプログラムがある。

映画作品上映や市民文化団体によるオーケストラの演奏会、パフォーミング・アーツなど次々に行われる演目のすべてが、本番だけでなく、準備やリハーサルも公開された。中でも、多くの来場者で賑わったのが12月3日に開催されたファッションショーだった。

ファッションショーの様子

ただ、このショーはいわゆるパリファッションウィークや東京ファッションウィークで発表される新作のお披露目の場ではなかった。ブランド不在、デザイナー不在のファッションショー。

ランウェイを歩いたモデルたちには「家族とか友人の発表会に招かれたつもりで特別な装いをしてきてください」というお題が与えられオーディションに参加。また500人を超えていたであろう来場者にもモデル同様に「家族とか友人の晴れ舞台を観に来るつもりで装ってください」というアナウンスを受けショー会場に集まった。

このファッションショーの演出を考える起点になったのは、多くの人が疑問に思う「ファッションって何?」ということ。私が辿りついた答えは、「誰かに対する“想い”がのっかっている服装である」ということ。こう見られたいとか、祝福したいとか、あの人に好かれたいとか……。

自分ではない誰か第三者が存在すればファッションになる。乱暴かもしれないがそのように定義することにした。これはつまり、“流行”とか“アーティスティックな作品”とか、“楽ちんな格好”“写真映え”みたいな考え方を排除することでもある。

場所についても考えた。さいたま国際芸術祭2023のメイン会場となっているのは、旧市民会館。ここではかつて、演奏会や成人式が行われていた。いわば“ハレ”の場であった。そんな晴れ晴れしい市民会館の姿を取り戻すことができないか、と。そうすればきっと、さいたま市の方たちともこの場所の魅力を共有できるのではないか(旧市民会館は閉館中で取り壊しになるという声もある)。

じゃあどうすれば、当時の風景を取り戻せるだろう……そんなことを考えていると、同じ“想い”で洋服を着てきた人たちが集まればそれらしい風景になるのではないか。ロックTシャツを着た人たちが500人集まれば、おそらく周りの人たちは、「ここら辺でロックフェスでもあるの?」と聞いてしまうように。

ソーシャルメディアの普及とそれを使ったマーケティングによって均一化されつつある“ファッション”を見つめなおすショー。当たり前のように、毎日着る服を見つめなおすためには、現在のファッション的価値観に揺さぶりをかけたいと思った。少なくとも会場に集まった人たちは、いつもとは違う思考で洋服に向き合ったことだろう。

そしてフィナーレを終えたモデルたちがステージ上に戻ってきた時、スタッフだけでなく、会場にいる全員が拍手をしてくれたのは、演出外の出来事だった。“わたしたち”でつくったファッションショーを感じる奇跡的な瞬間だった。