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星野佳路、中村洋基、田中絢子。あの人はどんなビジネス書を読み込んでいる?

あの経営者の愛読書は?何度も読む理由とは?刻一刻と変化するマーケットで生き残っていくためには、新しい気づきを与えてくれる存在が必須。業界を牽引するビジネスパーソンが薦める本当に役立つビジネス書、揃ってます。

Text: Kanta Hisajima

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観光産業の概念を広げる、
リゾート経営のトップランナー。
星野佳路

星野リゾートの基本はこの本に。

アメリカの経済学者、フィリップ・コトラー先生とお会いした時のこと。ビジネスの話になり、「ファイブ・ウェイ・ポジショニング」という経営理論を教えていただきました。当時はそういったタイトルの書籍や論文もなく、1年かけて探し当てたのが『The Myth of Excellence』でした。

今回紹介する本はその和訳版。ここで言うファイブ・ウェイとは、商品、価格、経験価値、サービス、アクセスの5つの要素からなるポジショニング戦略のこと。本書では、すべての要素において完璧を目指すのは非効率的であり、各企業の状況により磨くべき要素は異なると書かれています。

5つのうち、どれか1つの要素を最高レベルで達成し、2つ目に選んだものは、同業他社との差別化を図るための要素に、そしてほかの3つの要素は業界標準程度にとどめる。それが最も良い状態と規定しています。

それはなぜか。企業活動は予算や人員を含む有限なリソースの中で行われています。そのリソースをどこに割り当て、どこに売りを作り、業界の中でどうマーケティング上の競争優位を築くべきか。その基本戦略に大きな影響を与えてくれました。

今でも新たにホテルを開業させる時や、違う挑戦をする前には、この本に立ち返って、リソースの配分は間違っていないかを定期的に確認しています。

クリエイティブアイデアを社会に実装し、
新領域のビジネスを作る仕掛け人。
中村洋基

危機に陥った時、大切なのは交渉術?

会社の経営に携わっていると、胃がキリキリするような不測の事態に見舞われることがあります。弁護士を連れ、ペン型ボイスレコーダーを忍ばせて先方との交渉に臨む。そんなピンチが数年前にやってきました。

もともとビジネス書を読む習慣がなかった僕ですが、藁にもすがる思いで「交渉」についての本をかき集めて、出会ったのが『ハーバード流交渉術』。激昂する相手と対峙し、混乱する僕の心理状況に、本書はてきめんに効きました。感情と問題を分離し、双方にとってプラスに働く出口を見つける。交渉の相手とは敵対しているのではなく、こちらと同じ問題の解決者である。

この原則立脚型の考え方のおかげで、直面している事態を俯瞰的に捉えることができ、なんとかその危機を回避することができました。シビアな交渉の場においては、「感情は置いておく」という旨を相手に提示することが大切です。その前提をお互いに共有するだけで、スムーズな交渉が実現できるんです。それから同じようなピンチのたびに読み返しては、考えを整理しています。

立場に固執すると合意は遠のく、当事者の数が多いと余計にこじれる、相手に敵意を芽生えさせない。本書から学んだこの指針は、クリエイティブワークのプレゼンでも、経営方針を決める社内会議でも、欠かせない考え方ですね。

小柄な女性のための
ファッションを当たり前に。
田中絢子

刺さるマーケティングを再確認できる一冊。

洋服は山のようにあるのに、小柄な私のための服はない。そんな実体験から、身長140~155cm以下の女性のためのアパレルブランド〈COHINA〉を始めました。

起業当時の私はまだ学生。周囲との社会経験の差を埋めるために、マーケティング関連のビジネス書を色々読んでいたんです。自分のやり方が正しいのか迷っていた時に、小柄な女性という特定の顧客設定を肯定してくれたのがこの本でした。

まず1人に刺さるプロダクトを作る、ということが重要と書かれていて、それが私にとっての「小柄な女性のための服」でした。本の内容と私の実現したいことが完全にリンクし、このまま頑張れと背中を押してくれた気がしましたね。

マスではない特定の層=N1に響くものを作るためには、顧客を徹底的に理解し、リアルな声をプロダクトに反映させる。それが商品の独自性につながり、数あるブランドの中から、選んでいただく理由になる。顧客に寄り添ったうえで、マーケティングが始まる。本書を読み込んでからは、SNSを運用する意識も変わりました。

以前は認知を増やすことに注力していましたが、今では顧客との対話の場に。だから私たちは、インスタグラムライブのコメントやDMでのやりとりを大切にしています。その距離の近さがあるから、本当のニーズが見えてきます。

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