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ブルータス時計ブランド学 Vol.28〈ゼニス〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、この1年間に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第28回は 〈ゼニス〉。

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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ハイビート技術で、クロノグラフを革新

スイスの時計産業は18世紀以降、製造を部品ごとに組織化した分業制を採ることで発展してきた歴史を持つ。しかし〈ゼニス〉は1865年の創業当時から、時計製造に関するすべてを集約するマニュファクチュールであることを目指した。あらゆるパーツを自社製造する同社のムーブメントは品質と精度とに優れ、1900年のパリ万国博覧会に出品した懐中時計が、金賞を受賞。その時計に搭載されたムーブメントの名こそ、天頂や頂点を意味する“ゼニス”であった。

以降、数々の精度コンテストで優れた成績に輝いてきた〈ゼニス〉の優れた技術力は1969年、一つのクロノグラフ・ムーブメントに結実する。今もメゾンのアイコンとして名高い「エル・プリメロ」である。時刻表示とクロノグラフの各機構が完全一体化したムーブメントとしては初の自動巻き。時をカウントするテンプが1秒間に10回振動するハイビートにより1/10秒単位の計測を可能とした、これまた初のクロノグラフは、今も改良を加えられながら製造が続けられるロングセラー機にして傑作である。

現在の〈ゼニス〉は、トゥールビヨンやミニッツリピーターといった複雑機構を自社開発・製造できる優れた技術力を有する。また腕がどのように動いても、テンプが最高精度となる水平を常に保つ独自機構も持つ。得意とするクロノグラフ機構においても、2017年に毎秒100振動という超ハイビートのクロノグラフ専用テンプを組み込むことで、1/100秒計測を実現した「デファイ エル・プリメロ21」を開発。クロノグラフ機構を、ハイビート技術で再び革新してみせた。またシリコン製パーツを積極的に導入するなど、〈ゼニス〉は常に時計界の天空の一番星を目指し、進化を続ける。

【Signature:名作】クロノマスター オリジナル 1969

半世紀以上の時を超えるアイコン

〈ゼニス〉クロノマスター オリジナル 1969

38mmの小振りなケースのフォルムと、インダイヤルを3色に塗り分けたダイヤルデザインは、1969年にエル・プリメロを初搭載したモデルの一つ「A386」の再現。モデル名にオリジナルと1969とを冠するゆえんだ。真紅に染めたクロノグラフ秒針が、毎秒10振動のスムーズな運針を、より印象的にする。

脱進機を軽量で高効率なシリコン製とした進化系エル・プリメロを搭載。パワーリザーブが60時間まで延び、実用性を高めた。中リンクをポリッシュ、両サイドリンクをヘアラインに仕上げ分けたブレスレットの質感も美しく、ケースとの一体感も高い。

径38mm。自動巻き。SSケース。1,254,000円。

【New:新作】パイロット ビッグデイト フライバック

プロパイロットのための新たな計器

〈ゼニス〉パイロット ビッグデイト フライバック

2023年フルリニューアルされた「パイロットウォッチ」コレクションからの一本。丸みを帯びたケースとフラットで幅広のベゼルとの組み合わせは新デザインで、ダイヤルには横ストライプが与えられ、モダンな印象となった。クロノグラフを作動させたままリセットできるフライバック機構を搭載。新開発のビッグデイトは、わずか0.007秒で瞬時に切り替わる新設計だ。

径42.5mm。自動巻き。セラミックケース。1,727,000円。

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