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ブルータス時計ブランド学 Vol.29〈ウブロ〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、この1年間に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第29回は〈ウブロ〉。

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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融合を旗印に、次々と新機軸を確立

ブランド名は、フランス語で「舷窓」の意。〈ウブロ〉は、船窓のフレームを幅広のビス留めベゼルで、ヒンジと取っ手をケースサイドに突き出す“耳”で表現した独自のスタイルを確立し、1980年にデビューした。創業者は、イタリア人のカルロ・クロッコ。彼はデビュー作でゴールド製の高級時計に初めてラバーストラップを組み合わせるなど、デザイン大国で生まれた豊かな感性で時計界に新風を吹き込んだ。

時計市場においてエレガントなスポーツウォッチブランドという地位を確立してきた〈ウブロ〉に2004年、転機が訪れる。業界で数々の功績を残してきたジャン-クロード・ビバーが、CEOに就任。彼はクロッコが確立したスタイルを継承しながら、「The Art Of Fusion」(異なる芸術や素材の融合)をコンセプトに掲げ、新たなアイコンの創造に取り組んだ。それを具現化したのが、2005年に誕生した「ビッグ・バン」である。ケースをいくつものパーツから成る複雑なレイヤード構造とすることでさまざまな異素材の融合を可能とし、同時に、かつてない立体的な造形美を創出して時計デザインの新時代を開いたのだ。

2009年には創業の地スイス・ニヨンに新ファクトリーが完成し、翌年ダイヤル側にクロノグラフ機構を構築した自社製ムーブメント「UNICO」が完成すると、透明なダイヤルという新機軸を打ち出した。ファクトリー内には素材開発のラボを持ち、セラミックと純金を融合させた傷が付かない18金「マジックゴールド」や他社には真似できない多彩なカラーセラミックといった独自素材の数々が、ここから生み出されている。

また、さまざまなジャンルのクリエイターとのコラボでも話題を呼んできた。2018年にビバーはブランドから離れたが、コンセプトは継承し、毎年200近い新作をリリースし続けている。〈ウブロ〉は、優れた創造性と開発力で、ファンを決して飽きさせない。

【Signature:名作】ビッグ・バン ウニコ チタニウム セラミック

自社製ムーブメント搭載の代表作

〈ウブロ〉ビッグ・バン ウニコ チタニウム セラミック

チタンのケースとブラックセラミックベゼルとの組み合わせが、いかにも〈ウブロ〉らしい。自社製クロノグラフムーブメント「UNICO」を搭載。6時位置近くにあるコラムホイールをはじめ、クロノグラフ機構の全容を透明なダイヤルに表し、レイヤード構造による立体的な印象がより高まった。

クロノグラフを作動させたままリセットでき、そのまま再スタートするフライバック機構を装備。さらに約72時間駆動で実用性にも秀でる。ラグ中央の台形のボタンを押すと、ストラップが簡単に着脱ができるインターチェンジャブル式も先駆けた名作である。

径44mm。自動巻き。チタニウムケース。2,684,000円。

〈ウブロ〉ビッグ・バン ウニコ チタニウム セラミック
ケースサイドには、特徴的な“耳”を形成するブラックグラスファイバー製のパーツが、H型のビスで取り付けられている。

【New:新作】クラシック・フュージョン クロノグラフ オーリンスキー フルチタニウム

ファセットカットで織り成す造形美

〈ウブロ〉クラシック・フュージョン クロノグラフ オーリンスキー フルチタニウム

2017年にスタートした、現代彫刻家リチャード・オーリンスキーとのコラボモデルの最新作。彼の作品を特徴付けるファセットカットをケースとブレスレットとに施し、ビス留めベゼルは12角形に設えて、彫刻的な造形美を創出した。

さらにダイヤルを注視すると、針とインデックスもファセットカットで織り成されていると気付く。その姿は独創性豊かではあるが、決して奇抜ではなく、普段使いしやすい。また比重が小さいチタン製だから、ブレスレットウォッチであっても、着け心地は極めて軽快である。

径41mm。自動巻き。チタニウムケース。世界限定250本。2,332,000円。

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