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ブルータス時計ブランド学 Vol.30〈ハリー・ウィンストン〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、この1年間に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第30回は〈ハリー・ウィンストン〉。

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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唯一無二の腕時計を創造するダイヤモンド王

映画『紳士は金髪がお好き』で主演のマリリン・モンローが「教えてハリー・ウィンストン、ダイヤモンドのすべてを♪」と歌った、アメリカを代表するハイジュエラーが、初めて腕時計を発表したのは1989年のことだった。

ファーストコレクション「プルミエール」がベゼル上下に掲げた、ニューヨーク本店のファサードをモチーフとした3つのアーチは、今も〈ハリー・ウィンストン〉ウォッチ共通のデザインコード。そしてキング・オブ・ダイヤモンドの異名を持つ宝石界の王は、腕時計製作においては改革者であった。なにしろファーストモデルの一つに当時、名門時計ブランドですら実現していなかった日と曜日の各表示をレトログラード化した永久カレンダーを投入したのだから。そのムーブメントの設計者は、独立時計師ジャン-マルク・ヴィダレッシュ。後に彼が興したアジェノー社は、複雑機構の作り手として、名だたるブランドから絶大なる信頼を得ている。

当時はまだ駆け出しだったヴィダレッシュを見出したのは、まさに慧眼。その後も〈ハリー・ウィンストン〉は、どこにもない腕時計を目指し続けてきた。2001年には、才能ある独立時計師に自由な創作の機会を与える「オーパス」シリーズが、2009年にはトゥールビヨンの新たな表現に挑む「イストワール・ドゥ・トゥールビヨン」シリーズが、スタート。また外装においても、2004年に始まった「プロジェクトZ」シリーズで、航空宇宙産業で用いられてきたジルコニウム系合金ザリウムを、時計ケースに世界で初めて採用するなど、その独創性を発揮してきた。

ラグジュアリーを熟知する〈ハリー・ウィンストン〉は、メカニズムも外装も唯一無二であることを追求し、真に価値ある時計を生み出す。

【Signature:名作】HW オーシャン・バイレトログラード オートマティック 42mm

メゾン伝統の機構を豪華に着飾る

〈ハリー・ウィンストン〉HW オーシャン・バイレトログラード オートマティック 42mm

1989年発表のファーストモデルに搭載したレトログラード機構は、以来〈ハリー・ウィンストン〉の象徴的メカニズムとなった。このモデルもオフセットしたダイヤルの下に、2つのレトログラード機構が備わる。右は曜日表示、そして左のレトログラード秒針は、せわしなく30秒ごとに帰零する様子がけなげだ。

ダイヤルはマザー・オブ・パール製。すべての表示をダイヤモンドで取り囲み、贅沢に視覚的に切り分けて視認性を高めている。ケースとストラップのバックルにセットされたものも含め、ダイヤモンドの総計は367個、約4.5カラット。絢爛豪華な一本である。

径42.2mm。自動巻き。18KWGケース。11,066,000円。

〈ハリー・ウィンストン〉HW オーシャン・バイレトログラード オートマティック 42mm
ケースやラグ、NY本店のアイアンゲートをモチーフとしたリューズガードの側面まで、ぎっしりとダイヤモンドがセットされている。

【New:新作】プロジェクトZ16

古典的トリプルカレンダーをモダナイズ

〈ハリー・ウィンストン〉プロジェクトZ16

軽量で耐蝕性に優れた特殊合金・ザリウムをケース素材に用いた、限定モデルシリーズの最新作。過去15作それぞれに異なる機構を搭載してきたが、今回は日・月・曜日のトリプルカレンダーが登場した。

針で示すポインターデイトに2つの窓による月・曜日表示という組み合わせは、極めて古典的。それを建築や橋の構造体に似た立体的なフレーム仕立てのスケルトンダイヤルによって巧みにモダナイズした。6時位置にはメゾンお得意の30秒レトログラードが備わる。

世界限定100本。径42.2mm。自動巻き。ザリウムケース。3,333,000円。

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