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ブルータス時計ブランド学 Vol.31〈パルミジャーニ・フルリエ〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、この1年間に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第31回は〈パルミジャーニ・フルリエ〉。

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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修復で名を馳せた“神の手”を持つ時計師

スイスのサンド・ファミリー財団は、稀少な懐中時計やオートマタ(自動人形)の優れた収集家として時計ファンには知られている。その修復と管理を1980年から任されているのが、時計師ミシェル・パルミジャーニである。

彼はそれ以前にも、〈ブレゲ〉や〈パテック フィリップ〉〈ヴァシュロン・コンスタンタン〉などを顧客とし、ヒストリカルピースの修復を担ってきた。また名だたる時計メーカーのために、さまざまな複雑機構の開発にも携わっていた。そんな彼の異名は、“神の手”を持つ時計師。そして1996年、サンド・ファミリー財団の助力を得て、ミシェル・パルミジャーニ自身のブランド〈パルミジャーニ・フルリエ〉が誕生する。

修復で得た知識と技術に裏付けられた、優れたメカニズムと伝統的な手仕上げの融合が、メゾンの矜持。また時計のみならず、建築や数学にも造詣が深い彼は、黄金比やオウムガイの渦巻きなどに見られるフィボナッチ数列に基づいたデザインでも高く評価されている。

財団も彼の創造性をいかんなく発揮させようと、ケースやムーブメントパーツの専用メーカーを次々と傘下に収め、2003年にはムーブメント会社「ヴォーシェ・マニュファクチュール・フルリエ」を設立。2005年にはダイヤルメーカーも買収し、その翌年には、他社にあまり例がないヒゲゼンマイの自社製造を実現したことで、「パルミジャーニ・フルリエ」は、スイスでも屈指の高い内製率を誇るに至った。

ブランド名にある「フルリエ」とは、古くから時計産業が盛んなスイス北西部の町の名。同地に1820年に建てられた歴史的建造物が、アトリエ兼本社である。そこには今でも修復部門があり、神の手を持つ時計師は古典に学び、創造の翼をさらに広げる。

【Signature:名作】トンダ PF マイクロローター

ダイヤル装飾を主役とする新定番

〈パルミジャーニ・フルリエ〉トンダ PF マイクロローター

2021年に登場した、ラグジュアリースポーツウォッチの新定番。ケースサイドにオーバーレイヤードした大型のラグが、ブレスレットと完璧な調和を果たしている。プラチナ製のベゼルに手作業で施したローレット装飾は、メゾンのファーストモデルからの継承。極端に短い植字インデックスが、ダイヤルの余白を大きく広げ、19世紀に作られたローズエンジンならではの繊細で複雑なバーリーコーン(麦の穂)模様のギョーシェ彫りの美しさが一層際立つ。さらに針もスケルトナイズして、ギョーシェを透かし見せた。ケース厚は、7.8mmと極薄で、エレガントな印象を高める。

径40mm。自動巻き。SS+Ptケース。3,454,000円。

【New:新作】トンダ PF ミニッツ ラトラパンテ

予定時間がメモリーできる、機械式ムーブメント

〈パルミジャーニ・フルリエ〉トンダ PF ミニッツ ラトラパンテ

色が異なる2本の分針が備わり、ゴールド側の針をケース左上のボタンを押すと1分単位で、下側のボタンで5分単位で進められる仕組み。ダイバーズウォッチの逆回転防止ベゼルのように分単位の予定時間をメモリーできる機能を、ムーブメントで実現した世界初の機械式時計が誕生した。

リューズと同軸にあるボタンを押すと、分かれたゴールドの分針が、ロジウムの分針に追い付き、元どおりに1つに重なる。離れている際にはゴールド側の針は動かず、ロジウム側の分針が追いつくのを待ち、1つに重なっているときには一緒に分をカウントする。極めて巧妙な設計が、手彫りギョーシェダイヤルの下に潜む。

径40mm。自動巻き。SS+Ptケース。4,389,000円。

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