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ブルータス時計ブランド学 Vol.27〈IWC〉

海より深い、機械式腕時計の世界から、知っておきたい重要ブランドを1つずつ解説するこちらの連載。歴史や特徴を踏まえつつ、ブランドを象徴するような基本の「名作」と、この1年間に登場した注目の「新作」から1本ずつ、併せて紹介。毎回の講義で、時計がもっと分かる。ウォッチジャーナリスト・高木教雄が講師を担当。第27回は〈IWC〉。

text: Norio Takagi / illustration: Shinji Abe

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ドイツ語圏で継承する質実剛健な時計製作

古くからの時計ファンは、〈IWC〉のことを、その社名International watch companyの略称で“インター”と呼ぶ。スイスの時計ブランドなのに社名が英語なのは、創業者フロレンタイン・アリオスト・ジョーンズが、アメリカ人の時計師だったから。彼はアメリカの先端技術とスイスの時計製作技術とを結び付け、高品質なムーブメントを製作するとの志を胸に抱き、母国を後にした。そしてスイス北東、ドイツ語圏の町シャフハウゼンに、ライン川の豊かな水流を活用した最新の水力発電所が完成したことを聞きつけ、ここに1868年、ファクトリーを開設したのだ。その電力で当時最先端だった工作機械を動かし、製作されるムーブメントは、主にアメリカで高く評価されることとなる。

以来、高品質な時計製作を続けてきた〈IWC〉は、1915年に自社製初の腕時計専用ムーブメントの開発に成功。1936年には民間航空会社向けの「スペシャル・パイロット・ウォッチ Ref.436」、1939年にはポルトガル商人からの依頼で高精度な航海用腕時計「ポルトギーゼ」と、現在に続く名作を生み出していく。また1950年には、当時の設計部長アルバート・ペラトンが、高効率な爪レバー式両方向巻き上げの自動巻き機構を発明。現在ではペラトン式と呼ばれるこの機構は、〈IWC〉の自動巻きの象徴的存在となっている。

1985年にはペラトンの愛弟子にして〈IWC〉の生ける伝説クルト・クラウスの手により、世界初のクロノグラフ永久カレンダー「ダ・ヴィンチ」が誕生。機械式腕時計の魅力を再認識させ、スイス時計業界がクォーツショックから立ち直る一つのきっかけとなった傑作中の傑作である。その後〈IWC〉は複雑機構でも頭角を現し、高級時計市場に確固たる地位を築いていく。2018年には、最新のファクトリーが完成。ムーブメントは80%以上、ケースはほぼ100%という高い内製率を誇るに至った。

【Signature:名作】ポルトギーゼ クロノグラフ

スタイリッシュな縦2つ目クロノグラフ

〈IWC〉ポルトギーゼ クロノグラフ

端正なアラビア数字とクラシカルなリーフ型針は、1939年に誕生した初代「ポルトギーゼ」からの継承。12時位置に30分積算計を、6時位置にスモールセコンドを配したクロノグラフは、1998年に誕生し、特異な縦2つ目デザインがスタイリッシュだとファッショニスタから大絶賛され、以来コレクションを象徴する存在となった。

2020年には外観をほぼ変えることなく、自社製ムーブメントを搭載、裏文字盤もシースルーバックを採用してフルリニューアル。クロノグラフ機構がコラムホイール式となったことで、耐久性と操作感とが向上し、機械自体の審美性もさらに高まった。

幅41mm。自動巻き。SSケース。1,116,500円。

【New:新作】インヂュニア オートマティック 40

ジェラルド・ジェンタ デザイン復活!

〈IWC〉インヂュニア オートマティック 40

「インヂュニア」とは、独語でエンジニアとの意。磁気を発する機械を整備するエンジニアのために、軟鉄製インナーケースでムーブメントを保護した耐磁時計として、1955年に生まれた。このIWCを代表するコレクションの一つが今年、10年ぶりにフルリニューアルを果たした。

そのデザインは、天才時計デザイナー、ジェラルド・ジェンタが1976年に生み出した“ジャンボ”との愛称を持つ「インヂュニア SL」を規範としながら、現代的に再解釈している。縦と横の短いストライプで織り成すダイヤル装飾は、オリジナルの忠実な再現。一方でリューズガードを追加し、より屈強な装いとした。

幅40mm。自動巻き。SSケース。1,628,000円。

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