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北村紗衣と三宅香帆、2人の批評家が考える。作品を深く楽しむ「批評」の話

一つの作品をめぐる解釈は人それぞれ。2人の批評家が考える、「批評」を通じて作品をより深く楽しむための方法とは。

Text: Daiki Yamamoto

クリエイティブな批評が
作品の周りにコミュニティを作る

三宅香帆

「作品」と「批評」は、私は作曲家と演奏家のような関係だと思っていて。演奏が良いと曲も良く聞こえるというように、良い批評を読むと作品も良く見えることもありますよね。

北村紗衣

演奏家が取り上げることで音楽が広く知られたりするように、批評があるかどうかはすごく大事ですよね。良い作品でも誰かが批評しないと後世に残らなかったり、広く読まれなかったりする。

例えばフェミニズム批評が出てくるまでは女性の作家の作品がきちんと評価されずに、あまり知られないまま残らなかったこともある。批評によってどういう作品が後世に残るかが決まってしまうような、緊張した関係もあると思います。

三宅

批評にも責任があるし、書くには覚悟もいる。そのうえで、読むこと自体もクリエイティブなことだと知ってほしいなといつも思います。

北村 

「作家になれなかった人が批評家になる」みたいな冗談がありますけど、批評はクリエイティブじゃないとできないですよね。作品なくして批評はないし、批評なくして豊かな作品も生まれない。両方があるからこそ、芸術をめぐるコミュニティが成立するのだと思います。

三宅

私は大学時代に、作家や社会背景はいったん置いておいてテクストを精読するという批評のやり方を教わったんですけど、その考え方も意外と知られていないんですよね。『批評の教室』はそれを言語化しているのも貴重だと思いました。

北村 

大学で教えていると精読のやり方がわからない学生も多いので、この本はまず批評の前に「作品をしっかり読む」というところから始めました。作品を精読すると、自分の中で引っかかるところに実は歴史的な問題が隠されていたりする。そこが批評の切り口になると思っています。

批評からコミュニティが生まれる

三宅

最近書いた『女の子の謎を解く』では『トーマの心臓』や『大奥』など少し昔の漫画やアニメも扱っているのですが、今も批評や二次創作が活発な作品が多いんです。どんなジャンルでも、そういう批評のコミュニティによって作品の寿命が延びることもあるなと思いました。

北村 

私も三宅さんの『バズる文章教室』を読んで、批評においても「バズる」ってすごく大事だなと思ったんですよね。すごくいい批評でも、多くの人に読んでもらえないとそういうコミュニティも発生しづらくなる。コミュニティの活性化という視点では「バズる」って批評にとってもすごく大事なことなんじゃないかと思います。

三宅

批評が読まれれば読まれるほどその作品が知られていくこともありますし、批評こそ面白く書かれて、多くの人に読まれるべきだなといつも思います。

北村 

本当にそうですよね。『批評の教室』も、ずっと「批評って楽しいよ」と言っている本なので、作品についてみんなで読んでみんなで書く、みたいなコミュニティが理想的だなと思います。

北村紗衣が選ぶ批評入門本

『批評理論入門―「フランケンシュタイン」解剖講義』廣野由美子

『批評理論入門― 「フランケンシュタイン」解剖講義』廣野由美子
中公新書/¥902

小説『フランケンシュタイン』を例に、「小説とは何か」という問題に迫る批評理論の入門書。「大学の英文学科では定番の本です。『批評の教室』を読んだあとにぜひこの本を読んでほしいと思います」。

『スクリプトドクターの脚本教室・初級篇』三宅隆太

『スクリプトドクターの 脚本教室・初級篇』三宅隆太
新書館/¥2,200

脚本のお医者さん=“スクリプトドクター”による脚本指南書。「批評をする人でも実作マニュアルを読まない人もいますが、脚本や展開の問題点を指摘したり、良い点を検討したりするのにとても役立ちます」。

三宅香帆が選ぶ批評入門本

『大学生の論文執筆法』石原千秋

『大学生の論文執筆法』石原千秋
ちくま新書/¥902

大学の授業の受け方から研究報告書の作法まで、論文執筆の方法論が体系的にまとめられている。「タイトルは“論文執筆法”ですが、批評をする際の切り口の立て方や気をつけるポイントなども書かれているので、批評の入門書としても読めます」。

『ゼロ年代の想像力』宇野常寛

『ゼロ年代の想像力』宇野常寛
ハヤカワ文庫JA/¥902

文学、アニメ、ゲームなどを横断し、ゼロ年代に生まれた物語が何を描いたのかを論じた一冊。「映画や文学に限らず、どんなジャンルの文化でも批評の対象になると気づかされます。自分の視野や好みを広げる意味でもいい本だと思います」。