CAMADO BREWERY(瑞浪/岐阜)
語る人:醸造長・丹羽 智
醸造歴25年の生ける伝説が、故郷に凱旋して仕込むビール
山梨県の〈Outsider Brewing〉や、静岡県の〈West Coast Brewing〉に立ち上げから参加し、バーレーワインや自然酵母のビールを日本に広めたパイオニアでもある丹羽智さん。日本のクラフトビール界を牽引してきた彼が、2020年から故郷である岐阜県の東濃地方でビール造りを始めた。
「この道に入れ込んで長いことビールを造ってきましたが、最後は地元のためになる仕事をしたいと思っていました」。久しぶりを意味する「やっとかめ」や、安心を表す「あんき」など、この地の方言を名前に冠した地元愛に溢れる商品も発表。そしてレジェンドが造る逸品だけに素材の一つ一つがしっかりと香り、一流の味わいが楽しめる。地元の特産品や、御神木までもビールに取り入れるチャレンジングな姿勢は健在で「今まで飲んだことのない一杯を造りたい」という欲求は、この地でも原動力になっているようだ。
2021年12月にビアバーがオープン。「お客さんから直接反応が返ってきたり、会話をしたりすることで、また新しいアイデアが生まれるかもしれません」。ビールを探究し続ける丹羽さんの挑戦から目が離せない。
ひみつビール(伊勢/三重)
語る人:醸造責任者・佐々木基岐、藪木啓太
祖父母の納屋と畑を受け継いで造る、同級生2人のファームハウスブルワリー
「秘密ってこっそり教えたくなるでしょう?そうやって噂が広がれば」と名前の秘密を教えてくれた藪木啓太さん。高校・大学と同窓の2人は、共に農家出身で植物が好き。ならば大好きなビールを自ら育てた原料で造りたいと、夢を共有するように。
藪木さんは〈南信州ビール〉〈YOROCCO BEER〉、佐々木基岐さんは日本酒の酵母研究を経て〈伊勢角屋麦酒〉で修業を重ね、30歳を越えたところで合流。納屋を1,000Lのブルワリーにし、畑にはライ麦を植えた。「目指すのは仲間と分かち合うために農家が醸造するビール。セゾン酵母が香る賑やかな味わいを」と口を揃える。ライ麦でのファームハウスエールを皮切りに、未来の定番を目指し日々醸造する。
3TREE BREWERY(茨木/大阪)
語る人:代表・森 凌平
“飲み疲れない味”に重きを置く地域で愛されるマイクロブルワリー
森凌平さんがクラフトビールにハマったのは、大学生の頃。「地ビールのイベントで出会った、小規模のブルワリーが造る多種多様な味に惹かれて」。大学卒業後は北海道・登別(のぼりべつ)〈鬼伝説ブルワリー〉で4年間、醸造を学び2020年に独立。
「修業先の『金鬼ペールエール』がそうであるように、目指すは何杯でも飲める“ドリンカブル”な味」。「RPG」(アメリカンペールエール)なら液体酵母をやや高めの23℃で発酵させ、柑橘に通ずる香りを際立たせる。タップルームで提供する定番と月替わり各2種は「どれから味わっても一巡できてまだ飲める」と常連にも好評。大阪北部・茨木初のブルワリーだけあり、地域の人々が集うコミュニティの場になりつつある。
TWO RABBITS BREWING COMPANY (二兎醸造)(近江八幡/滋賀)
語る人:代表取締役、醸造責任者・ショーン・コレット
母国のスタイルと滋賀の素材を融合させ、高い風味と飲みやすさを実現する
「滋賀には母国に通じる自然の美しさと、土地の持つゆとりに魅力を感じて」、近江八幡にブルワリーを立ち上げたオーストラリア出身のショーンさん。京大大学院でMBAを取得した後、事業を始めるなら長年続けてきたブルーイングだと、改めて母国の醸造学校でビール造りを学んだ。自身がオーストラリアとニュージーランドにルーツを持つことから、使用するホップは両国のもの中心。
「飲みやすさと飲み応えを兼ね備えているのがオーストラリアのビール。その部分を大切に、近江八幡産の小麦や国産金柑なども使い、真似ではない新しいビールを」とリリースはほぼ毎週。近年は木樽熟成ビールの製造やサブブランド〈ツウラビ〉のリリースも意欲的に行う。
奈良醸造(奈良/奈良)
語る人:醸造責任者・浪岡安則
奈良への地元愛から醸造者の道へ、好みの味を探す案内役を目指す
「バックパッカーで海外を巡るうち、苦手なビールもおいしく飲めるものがあると知って」クラフトビールに魅了された浪岡安則さん。地元・奈良に醸造所が増えてほしい気持ちが高じて自ら醸造の道へ。「将来は奈良に戻りビールを造ろうと、立ち上げのタイミングだった〈京都醸造〉を修業先に」
2年の修業を経て、奈良市の郊外に立ち上げたブルワリーは2klの釜と7本の発酵タンクを備えた、スタートアップとしては大きな規模のもの。現在は缶商品の「ファンクション」など定番ビールを中心に、季節ごとに異なるシーズナルビールを販売する。「さまざまな種類のビールの中から好みの一杯を見つけてもらえたら」
NOMCRAFT(有田川町/和歌山)
語る人:ブルワー、マネージャー・金子 巧
有田川に魅せられた3人の男が醸す目の覚めるようなIPAを
米・ポートランドと連携した街づくりが盛んなこの地に移住した3人の男たちによる醸造所。ブルワーの金子巧さんは「ウチのビールは、ホップ・フォーカス」と。発起人のベンはクラフトビールの本場ポートランド出身で、シカゴ出身でヘッドブルワーのアダムはビールソムリエの資格を持つ。
「常に新たな手法を学び、アメリカンスタイルのIPAやペールエールなど、ホップの個性を全面に表現したビールを造ります」。時には地元の特産物、ブドウ山椒や柑橘などを用いた挑戦的な球も。卓球台がある店内では、地元客や外国人客が入り交じる光景が。「クラフトビールが生み出すコミュニティをここから発信したい」。金子さんの眼差しはアツい。
Cliff Beer(沖縄/沖縄)
語る人:醸造アーティスト・宮城クリフ
島の素材にこだわった芳醇なビールが描く、沖縄の豊潤な風土
画家でもある宮城クリフさんがビールの魅力にハマったのは、イギリスでの11年間のアーティスト時代。イギリス伝統のリアルエールに惹かれた。「パブごとに違う醸造所のリアルエールが飲めたり、地方ではエールフェスタが町々で開かれ、老若男女みんなで楽しんだり……。ビールはまさしく創造だし、文化だと感じました」
クリフさんが絵を描くのは、見る人とコミュニケートするため。それはビールでも可能なのでは?そう思って帰国後、醸造を始めた。「だから僕にとってビールはアートなんです」。沖縄特産のカラキ(琉球シナモン)を使って描いた彼のビールには、ほのかに甘くスパイシーな香りの奥にやんばるの豊かな森の風景が広がっている。
koti brewery(備前/岡山)
語る人:代表・妹尾悠平
自然酵母で時間をかけて醸すナチュラルなビール
「殺菌も時間や温度の管理も、人間の都合。そうではなく、ビール自身が気持ちよく“育つ”造りがしたい」と、話す妹尾悠平さん。発酵に使うのは、醸造所のある岡山県備前市の自然から採取する酵母。「多くの菌や微生物が含まれる自然酵母には、単にアルコール発酵を促すイーストと違い、“働き合う”力がある。副原料以上に、発酵過程で生まれる何かが、味の個性を決定づけると思うんです」
大学院で醸造学を修め、岡山市の酒蔵でビールの製造担当を務めていた妹尾さん。旅先のベルギーで自然発酵のビールに出会い、その味に打たれたのが今に至る経緯だ。地元産の小麦や夏ミカンをはじめ、原料は有機か無農薬が基本。「自然をなるべく汚さず次の世代へ」と、機材の洗浄もお湯だけで行う。
自然の中で、効率や生産性とは距離を置いて。ビールのテロワールの可能性と、ブルワーという職業だからできることを静かに探り、優しい味のビールとともに届けている。