TVディレクター・岡宗秀吾の本棚。未知なるものが並ぶ青春の棚

「オカルト、超常現象、UMA、ルポルタージュ、サブカル、格闘技、アート本、写真集、漫画……。なんかちょっと恥ずかしいです。中学生の時の脳内がそのままここにあるんでね」

photo: Kazuharu Igarashi / text: Izumi Karashima

消えてなくなるような本を持っとくんです

TVディレクター岡宗秀吾さんの書斎は10畳ほどの広さがあり、壁一面に設置された本棚には本やおもちゃ、海外の民芸品などが所狭しと並ぶ。

「なんの役にも立たないものがほとんどですけど。みんなが残しときたいやつは誰かが持ってる。僕はそれ以外を持っとくんです。いわばVHS。配信もない、DVD化もされてない、VHSだけはある、っていう。いまは役に立たんかもしれへんけど、いつか必要になると信じてて。例えば、情報がアップデートされる本ってあるでしょ。雑誌とか。そういうのは持っとかないと消えてしまう。僕は、その時の熱みたいなもんを取っておきたいんです」

という話を聞いていたその時。カメラマンが本棚の全景を撮影するためソファを移動させた。するとその下からホコリまみれの雑誌がドサッと出現。1980年代の『ポパイ』と『ホットドッグ・プレス』の山だった。

「ね。こういうことなんですよ。特集『ギャル、君と話したい』(笑)」

僕は自分の知らない世界を、未知なるものを見てみたいから

そんな岡宗さんが「取っておきたい本」とは。まずは、『「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気』。

「タイトル通り、アニメ『宇宙戦艦ヤマト』のプロデューサーであり、生みの親の人のノンフィクション。アニメ界の伝説のフィクサーみたいな人なんやけど、もともとは音楽関係の仕事をしていて、いろいろ経て、虫プロダクションに入り、手塚治虫さんのマネージャーとなりアニメの世界を知るんです。その後、虫プロを乗っ取ろうとして失敗、独立して自身のプロダクションを設立。

で、『宇宙戦艦ヤマト』を企画し松本零士さんに不眠不休で絵を描かせアニメを作る。とにかく数奇な人生というか、めちゃくちゃな人。愛人が何人もいるわ、銃を所持してるわ、覚醒剤はやるわ。まさに昭和のダークヒーロー。最後は、自身の船『YAMATO』の甲板から海に落ちて不審死を遂げる。ピカレスクロマンですよ。大藪春彦の小説みたいな人。こういう人がいたことは覚えとかなアカンと」

『「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気』牧村康正、山田哲久/著
『「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気』牧村康正、山田哲久/著
『宇宙戦艦ヤマト』シリーズの製作で知られる伝説のプロデューサー西崎義展の成功と挫折の記録。「悪党といわれたアニメ界の黒歴史のような人やけど類い稀な才能があったのは確か。彼がいなければ日本のアニメ界はどうなっていたか。映画というギャンブルに賭け続けたすごみ」。現行版は講談社+α文庫/1,012円。

『東京タイムスリップ1984⇔2021』と『ハートはTEDDY』も残すべき写真集だと岡宗さんは言う。

「『東京タイムスリップ』は街の定点観測。渋谷や新宿といった東京の街の写真を1984年に撮っていて、それを40年後にもう一度、同じ場所、同じアングルで撮るという。すごいです、そのコンセプトが。しかも80年代の雑然とした東京の街はいまと比べると若くて青いんですよ。見ててなんだかグッときます。

『ハートはTEDDY』は80年代のロックンロールシーンの写真集。原宿のホコ天でフィフティーズの格好をして踊ってた“ローラー族”を追っているんです。ローラーは当時の不良カルチャーの一つで、これだけの写真記録が残ってるというのは珍しい。しかも青春の刹那がそこにはあって。青春のリビドーを感じさせてくれるんです。街の写真集もそうだけど、写真って瞬間が切り取られるからいい。映像の方が情報性は高いけど、写真には余韻がある。この余韻に青春が封じ込められているんです」

岡宗さんは「青春狂」ですもんね。

「そう。どんな青春も肯定する。一生懸命であればいい。ホンマ、おじいさんみたいなこと言ってますけど(笑)。一生懸命といえば、コレ。映画『マッドマックス』のファンが自費出版した『40年史』。熱量がものすごい。マクラウドさんという人が、日本で起きたマッドマックス現象をまとめていて。公開時のポスターやチラシや新聞広告、全部収集して。面白いのは、これが日本のカルチャーにどんな影響を与えたかを調査してること。こんな漫画が登場した、こんな映画ができた、長渕剛のPVに流用された(笑)。とにかく、愛するがゆえの圧が強烈です」

『マッドマックス40年史 V2.5』マクラウド/編
『マッドマックス40年史 V2.5』マクラウド/編
映画『マッドマックス』が1979年に公開されて以降、日本のカルチャーに与えた影響について映画の熱狂的なファンであるマクラウドこと白石知聖が細かく調査し考察。「同人誌のような熱量で、詳細にわたってめっちゃ丁寧に作られている。マクラウドさんの愛が強すぎてアテられました」。マクラウド/品切れ。

じゃあ、岡宗さんお得意の超常現象系はどうだろう。2025年に世界が終わるという予言が流行っているが。

「明治大学の石川幹人先生の本をよく読むんですが、“超常現象は科学や心理学で全部説明可能だ”と。だからそういった予言や心霊の類いは“ニセ”やと。ただ、テレパシーなんかの超能力は僕は信じてて。石川先生も“ある”と。だから“超能力世界一決定戦”をやってみたい。科学的な見地を踏まえたエンターテインメント番組を作りたい。僕は自分の知らない未知なるものを見たいんです。西崎義展もローラー族もマッドマックスも女の子も、全部そう。それは一体どんな世界なん?」

TAG

SHARE ON

RECOMMEND MOVIES
おすすめ動画

BRUTUS
OFFICIAL SNS
ブルータス公式SNS

SPECIAL 特設サイト

RECOMMEND MOVIES
おすすめ動画