ギャラリーとオフィスを緩やかに仕切る。アートディレクター・前田晃伸の本棚

2024年11月、神楽坂に事務所を移した前田晃伸さん。新しい空間の半分以上を占めるギャラリースペースと、デスクが並ぶオフィス部分を仕切るのはスケルトンの本棚。個性的な空間は、建築家の関祐介さんによるものだ。

初出:BRUTUS No.1021「理想の本棚。」(2024年12月2日発売)

photo: Keisuke Fukamizu / text: Asuka Ochi

空間を緩やかに仕切る本棚の壁

「ここに引っ越す前、棚に置ける分量を考えて、持っていた本の半分くらいを手放したんです。古本を売るイベントを何回かやったりして、価値があるかないかは別で、仕事の資料として使えそうなものだけを残しています」

空間を仕切るスチール製の支柱に取り付けられた〈ヴィツゥ〉の本棚は、関さんからの提案。本や雑誌の紙の束が、独特の景色を作り出している。

「ギャラリー的なスペースとオフィスを一つの場所に作るにあたって、2つの空間をビシッと区切らず、境を緩やかにしたかった。そうすることで展示に来た人が、向こうで働いている人がいることも認識できる。コンビニもカウンターの奥にいると店員で、販売スペースにいると客という、そういう境界線が不思議で面白いなと思って」

緩やかな境のために考案された本棚は、思いがけず使い勝手がいいようだ。棚の右奥にあるスペースで打ち合わせ中に資料が必要になった時も、わざわざオフィス部分に入らずとも、裏側から必要な本を取ることができる。

「裏からでもなんとなく何の本かはわかるので。空間が仕切られていないからこその便利さはありますね」

アートディレクター・前田晃伸 オフィス 本棚
もともと倉庫だった空間を改装した事務所。手前側のギャラリースペースは、撮影や展示会などにも利用。一部可動式のアルミ支柱に棚を設置して、両側から本が取り出せる仕組みになっている。

本棚にあるからこそ、今必要なアーカイブにアクセスできる

そんな棚の中身を占めるのは、グラフィックやカルチャー寄りのビジュアル本が大多数。学生時代から、神保町などで古本を漁(あさ)って集めたものだ。

「当時はお金がなかったこともあって、高くても1冊4000円くらいまでと決めて、古本ばかりを探していました。店先の箱に入っているような二束三文の本の中から、何の本なのかわからないような掘り出し物を探すのが面白いんですよね。昔の本には今と違ってデザイン的に凝っているものや、内容的に見ても貴重と思えるものがたくさんある。本の歴史って意外に長いし、ジャンルも広い。自分が知らなかった世界に、いつも刺激をもらっています」

そうやって集めた本だが「金額的に価値のあるものはない」と言う前田さん。デザイン事務所の本棚を飾るような、いわゆるおしゃれなハードカバーより、どこにアイデアの引き出しがあるかわからないような、予想を超えてくる本がイメージソースになるという。

「例えば、荒俣宏さんの本などデザインの文脈と関係のないものも、資料になる可能性があると思って本棚に残しています。今はただ置いてあるだけですが、どこかのタイミングで急に資料として成立するかもしれない。その時に必要と思うものはすぐには手に入らないし、準備があって初めて目的と合致するから、資料になる/ならないは、長期的に考えています。

本はどうしても物量のあるものなので、内容をデータ化したりして本棚を持たなくてもいいのかもしれないけれど、そうした途端に、すぐには辿り着けないものになってしまう。自分が作ったアーカイブにアクセスしやすい環境を作れるのが、本棚のいいところ。その中身をどのようにして自分が体系立てていけるかも大事だと思っています」

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