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本の世界を支える書評家・石井千湖の本棚。整頓し、循環を促して本棚を育てる

世に出た本を広く紹介する書評家・石井千湖さん。本の世界を支える人の本棚はどう選ばれ、どんな生態を持ち、そこには何が並んでいるのだろうか。

photo: Mina Soma / text: Hikari Torisawa

整頓し、循環を促して本棚を育てる

幅600×奥行き170mm。天井や梁(はり)に固定できる「カシマカスタム」の白を5台と、その横に色を合わせた本棚がもう1台。

「フランス文学者の鹿島茂さんがプロデュースした本棚を愛用しています」と語る石井千湖さんの自宅兼仕事場。リビングの壁一面を覆うのは、「本好きのための書棚の最終進化形」の異名を持つ「カシマカスタム」だ。単行本、文庫、文学全集などが隙間なく並び、すべての背表紙がこちらを向いている。

ライター、書評家・石井千湖 自宅 本棚
壁一面を埋める本、本、本。自著や解説を担当した本など一部は面を出して陳列している。

「これに出会う前は、奥行きのある棚に前後2列で本を入れていました。でも背表紙が見えないと、持っているはずの本が見つからない。結果同じものを買うことになってしまうので……私は背が全部見えていないとダメなんだ!と割り切って奥行きの浅いものに買い替えました。梁の高さに合わせて突っ張って固定できるので、地震も怖くなくなりました」

函(はこ)入りの文学全集や大型本は壁際に並べた深さのある棚に。窓際にはイタリア〈DOTTUS〉社のスチール製タワー2台とキャットタワーが並ぶ。「タワーは、積ん読のなかでもすぐに手に取るであろう本の定位置です。コンパクトですが200冊くらい積めるし安定しているので重宝しています」

ライター、書評家・石井千湖 自宅
地震の時も倒れなかったというタワー型シェルフ。棚板も薄く見かけ以上に容量たっぷり。

並び順は厳密には決めておらず、隙間を作っては少しずつ入れていく。

「ジャンル分けしたいと思いつつ、日本文学も海外文学も詩歌も交ざりがち。電子書籍で買うことの多い漫画も、家族に読ませたい作品は紙でも買うようにしています」

そう取り出したのが『偶偶(たまたま)放浪記』。

「これを描かれた小指さんは、海外文学好きに愛読者の多い『隣の国の人々と出会う』『アホウドリの迷信』などの装画も描かれている小林紗織さんの別名義。知らない町の旅館に泊まったり、初めての街をさまよったりしたときのことなど、偶然訪れた場所や出会った人たちのことを、漫画に文章と写真を挟みながら描いています。ちょっとガロっぽい雰囲気があるんですよ」

海外文学を集めた一角からは、ハン・ガンのノーベル文学賞受賞でますます注目が高まる韓国文学を。

「韓国には素晴らしい作家がたくさんいて、今はかなりの数が日本語訳されているんです。『七年の最後』は白石(ペクソク)という、北朝鮮当局の抑圧によって書かなくなってしまった実在の詩人をモデルに、詩と言葉の力に迫る長編。“詩の役目は、吹雪の中でもその炎を燃やすところまでだ。ほんのいっとき燃え上がった炎によって、詩の言葉は遠い未来の読者に燃え移る”という『冬の夜』という詩が引用されていて、今の季節に読んでほしい小説です」

『風配図 WIND ROSE』にも、アルチュール・ランボーの詩「酩酊船」が小林秀雄訳で引用されている。

「小説のなかに詩が引かれ、散文のなかに戯曲が入ってくるなど、形式としてもすごく面白い書き方をされているんです。12世紀のバルト海沿岸を舞台にハンザ同盟を扱う歴史小説でありながら、女性を描くフェミニズム小説でもある。90歳を超えた皆川博子さんの新たな挑戦に震えます」

『風配図 WIND ROSE』皆川博子/著
『風配図 WIND ROSE』皆川博子/著
ハンザ同盟前夜のバルト海沿岸で少女は正義のために立ち上がる。故郷の島に難破船が流れ着いたところから始まる、交易商を目指す2人の少女の物語。アルチュール・ランボーやライナー・マリア・リルケの詩に牽引され、戯曲形式で繰り広げられる景色が物語世界を彩る長編。紫式部文学賞受賞作。河出書房新社/2,398円。

新刊の紹介や批評を多く手がける石井さんの元には、購入した本、書評依頼とともに届く本、著者や版元からの献本など、毎月数十冊単位で本が集まってくる。取材中にも9冊が到着。ひとまず卓上に積まれる。

「読書は家のあちこちでしますが、原稿は書斎で。その時書評を書いている本や資料は書斎の棚やデスクにまとめています。あとは押し入れに積んだり、床に置いたり、箱にまとめたり。生活空間が圧迫されすぎないよう数ヵ月ごとに手放すものを見極めます。最近裁断機を買ったので、まずは大量の文芸誌からデータ化してみようかと」

裁断機は〈DURODEX〉。夏に出た著書『積ん読の本』の取材時に、飯間浩明さんの愛機を教えてもらった。「本を積む名人12人に取材したところ、柳下毅一郎さんと管啓次郎さんがバンカーズボックスを愛用されていて、こちらもさっそく真似しました!」