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『文學界』編集長・浅井茉莉子の仕事を支える、本棚と本の話

編集者、翻訳者、校正者……本をつくる仕事人たちは、普段どのような本をそばに置き、本をつくっているのだろうか。本のプロに聞いた、仕事を支える本棚と本の話。


本記事も掲載されている、BRUTUS「理想の本棚。」は、12月15日発売です。

photo: Masanori Kaneshita / text: Hikari Torisawa

文芸編集者を形作る、豊かで膨大な読書体験が詰まった本棚

「編集部の自分の棚には、担当作家の本、企画で使う本、いつかやりたい企画の資料、個人的に読みたい本、いただいた本などが混在しています。ほかの編集部員の棚から本を借りることもあって、専有と共有の間のような使い方。ただ会社では原稿とゲラ読みで時間切れになってしまうので、本は家に持ち帰って読みます。会社と家の本棚で分けているというより、本が行き来したり重複したりすることもしばしばです」

雑誌『文學界』編集部の本棚
編集部の壁や通路は本、本、本で埋め尽くされている。壁沿いの2棹&デスク後ろの1棹が浅井さん専用の本棚。

文芸編集者という仕事に直接・間接的に繫がった読書体験からおすすめを教えてもらった。

「金井美恵子さんは純文学の仕事をしたいと思わせてくださった書き手の一人です。平凡社のエッセイ・コレクションはどの巻もいいんですが、書き手についての言葉が独特の鋭さを持って、読み手の背筋を伸ばしてくれる『小説を読む、ことばを書く』を。中学生の頃から愛読している山田風太郎は、『戦中派不戦日記』や『人間臨終図巻』をときどき読み返します。人の生き死にが均等になり、反復される。それを感じるために本を読んでいるのかもしれません」

『定本 映画術 ヒッチコック/トリュフォー』など、映画本にもお気に入りが多い。

「淀川長治さんに映画の面白さをインストールされた身としては、映画は、ある時期まで最も生活に馴染んでいるエンタメでした。ヒッチコックは特に好き。映画はもとより、作っている人たちも魅力的だし、創作の裏側を知っても魔法が解けない作品の強さを知った本です。技術がいかに大事であるか、作られたもののすべてに意図があるということにも驚きました」

海外文学やノンフィクション、漫画など、純文学以外の本を読む時間も欠かせない。

「純文学と対極にあるような、世界をきちんと定義してくれるミステリーで心を整えています。最近ではミステリー作家、アントニイ・バークリーの別名義の小説『黒猫になった教授』が面白かった。松本侑子さんによる新訳がついに完結した『赤毛のアン』シリーズは少しずつ読み進めています。物語の中で長い時間が続き、自分もその一部分であると感じさせてくれる、長編小説を読む醍醐味をじっくり味わっています」

日本文学、海外文学、ノンフィクション、雑誌、文庫本など、ざっくりと分類され並べられている。

何度でも読みたい名作と、書き手、作り手の顔が見える3冊

浅井さんの手がける本

『文學界』
『文學界』
1933年創刊。五大文芸誌に数えられる純文学の雑誌。岡﨑真理子を新たなアートディレクターに迎え、ロゴ&デザインを一新した2024年1月号が発売中。又吉直樹、村田沙耶香の新作も掲載。文藝春秋/1,200円。