一緒に本屋巡りをしませんか?そんな誘いに「楽しそうですね。じゃあ、下北沢にしましょう」と応じてくれたのは、小説家の滝口悠生さんだ。「家が近いので、下北沢にはよく行くんです。古道具屋やレコード屋、あるいは〈スズナリ〉に芝居を観に行くついでに、ふらりと立ち寄る本屋が何軒かあるので」と滝口さん。というわけで、案内してもらうことに。
古書ビビビ(下北沢/東京)
講談社文芸文庫が揃っていることの信頼感。
よく晴れた昼下がり、待ち合わせ場所として指定されたのは、〈古書ビビビ〉。下北沢らしい、サブカル感満載の品揃えが楽しいお店だ。中に入るなり、店主の馬場幸治さんと親しげに立ち話を始めたところを見ると、かなりの行きつけらしい。
「下北沢で一番よく来る本屋かもしれません。以前、小説の資料になるかもしれないと思って古い伊豆のガイドブックを買って、結局使わないまま、またここで売ったこともあります(笑)。
一見、サブカルっぽい棚が目立ちますが、講談社文芸文庫やちくま学芸文庫がしっかりと並んでいる。そういうところが信頼できます」と語る滝口さんは、いろいろ見た末、「気になっていたけどまだ読んでいなかったので」と、ケイト・ザンブレノ『ヒロインズ』と蜂飼耳『空席日誌』を購入。
【パトロールMEMO】
個人経営の古書店としては都内でも五本の指に入るであろう敷地面積を誇る店内には、ポップカルチャーにまつわる本を皮切りに、CDにDVD、そして、なんと教科書までが並ぶ。レコードショップ〈ディスクユニオン〉と小劇場〈スズナリ〉との間という、極めてカルチャー度の高い立地にありながら、それをものともしない濃い品揃えだ。
ほん吉(下北沢/東京)
ニッチな要望にも応えてくれる充実の学術書。
続いて訪れたのは、先ほどとは打って変わって硬派な本が並ぶ〈ほん吉〉だ。滝口さんが足を止めたのは、教育にまつわる本が並ぶ棚。「今、僕は『新潮』誌上で戦中の硫黄島を舞台にした小説を連載中で、資料を集めているんですよ」と語りながら、西村滋の『やくざ先生』に手を伸ばす。
西村自身の経験をもとに書いた、戦争孤児が集まる学校が舞台の小説だ。「戦争にまつわる公的な文書はいくらでも残っているのですが、市井の人の私的な記録ってあまり見つからないんです。だから、こういうのが置いてあるのはありがたいです」と滝口さん。目の付けどころが、まさに小説家ならでは。
【パトロールMEMO】
林立する棚には、哲学、現代思想、言語学、心理学、宗教学などなど、分厚い学術書がぎっしりと詰まっている。中でも、ジェンダー関係の本を多く揃えている点が、お店の特色といえるだろう。また、取材時に滝口さんも足を止めて入念にチェックしていた、店先の均一棚が充実しているところも、古本好きに愛される所以だろう。
本屋 B&B(下北沢/東京)
いつも何かしら読みたい本が見つかる店。
最後に向かったのは、ブックコーディネーター内沼晋太郎さんらが手がける〈本屋 B&B〉。
「〈B&B〉には、イベント出演者という立場で訪れることがほとんど。そのついでに棚も見るという感じですが、いつも何かしら読みたい本が見つかるんですよ」という言葉通り、ここでも2冊購入。「実は今度、内沼さんのnumabooks出版部から本を出すんですよ。そのときにもここで何かできるといいですね」。
そう言い残して、滝口さんは帰路へ就いたのだった。
【パトロールMEMO】
ブックコーディネーターの内沼晋太郎さんと博報堂ケトルの嶋浩一郎さんが、2012年に共同で立ち上げた〈本屋 B&B〉は、下北沢のランドマーク的書店。「ビールが飲めて毎日イベントが開催される」という点もさることながら、同店の魅力はやはり内沼さんならではの編集力の高い棚作り。今や新しい本屋のスタンダードとなりつつある。