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ウイスキーをオーダーする前に、知っておきたいこと

バーでどんな酒をオーダーするか。酒好きにとっては永遠のテーマである。ビールでもカクテルでもなく、ハードリカーが飲みたい。そんな時、心強いのがウイスキーだ。原料、製法、生産地などで味わいを大きく変える「生命の水」。あっ、でもちょっと待ってくださいね。その前に少しだけ琥珀色の一杯に関するお勉強を……。
初出:BRUTUS No.695『20年通えるバー』(2010年10月15日号)

illustration: Hattaro Shinano / photo: Madoka Sakamoto / text: Ai Sakamoto / edit: Akio Mitomi

ウイスキーのあれこれ

ウイスキーとは、大麦、ライ麦、トウモロコシといった穀物からつくられた蒸溜酒を木樽で熟成させた酒。できたばかりのウイスキーは意外にも無色透明で、長期間の木樽熟成により、あの美しい琥珀色に変化するのだ。

よく蒸溜酒と醸造酒という言葉を聞くが、その違いは簡単である。穀類や果実を発酵させてできるのが醸造酒で、ビールや日本酒、ワインがその代表選手。蒸溜酒はそれら醸造酒を蒸溜した酒のこと。ウイスキー以外には、ブランデーやウォッカなどがこれにあたる。

意外なところではタイやインドまで、世界各地でつくられているウイスキーの主要生産国は5ヵ国。発祥の地とされるアイルランド、スコッチの名で知られるスコットランド、バーボンに代表されるアメリカ、そのお隣のカナダ、そして日本である。

これらの国で生産されるウイスキーは原料と製法により、大きくモルトウイスキーとグレーンウイスキーに分けられる。前者は大麦麦芽だけを原料に、単式蒸溜器で蒸溜したウイスキー、後者は麦芽以外のトウモロコシやライ麦などを主原料に連続蒸溜器で蒸溜したウイスキー。そして、この2つを混合したブレンデッドウイスキーを加えた3種類が、ウイスキー界の3巨人ということになるのだ。

一口にウイスキーと言っても、これら3タイプの味わいは千差万別。香り豊かで個性的なモルトに、クセのない味わいが万人受けするグレーン、香りと味のバランスが絶妙なブレンデッド。モルトに至っては、単一の蒸溜所でつくられたものだけを瓶詰めするシングルモルトウイスキー、単一の樽のみのシングルカスクまであって選択の幅は広い。これなら自分好みの一本を見つけるまで、かなりのウイスキーが飲める計算になる。

BASICS

古代ゲール語で「生命の水」を意味するウシュクベーハーを語源に持つウイスキー。12世紀には、アイルランドにその存在を認める記録も残る。洋の東西を問わず、大人の男に愛されてきた「生命の水」はやはり奥深い。まずは、その成り立ちから見てみよう。

HISTORY

1172年:イングランドのヘンリー2世がアイルランドに侵攻。蒸溜酒「ウシュクベーハー」を記録に残す。

1494年:スコットランド王室の会計記録に「王のためにアクアヴィタ(生命の水)をつくらせるため、修道僧ジョン・コーに麦芽8ボルを支給」との記述。

1713年:大英議会がスコットランドに、麦芽の量に比例して課税する麦芽税を導入。山間部を中心にウイスキーの密造が盛んになるほか、麦芽を使用しないグレーンウイスキーの生産が始まる。

1770年:アメリカで初のライウイスキーが製造される。

1789年:アメリカ・ケンタッキー州で、エライジャ・クレイグ牧師が初のバーボンウイスキーをつくる。

1826年:ロバート・スタインが連続式蒸溜器を発明。グレーンウイスキーの品質が高まる。

1831年:イニアス・コフィーが連続式蒸溜器の改良で特許を取得。グレーンウイスキーの大量生産が可能に。

1853年:ペリーが日本に来航。他の洋酒類とともにスコッチウイスキーとバーボンウイスキーを持参する。エディンバラのウイスキー商、アンドリュー・アッシャーがブレンデッドウイスキーを発売。

1871年:日本で公式にウイスキーの輸入が開始。

1905年:ロンドンにおいて、スコッチウイスキーの定義をめぐる裁判が開かれる。モルトウイスキー業界とグレーンウイスキー業界が対立し、論争が拡大。

1909年:王立委員会において、モルトウイスキー、グレーンウイスキーともにスコッチウイスキーとして認めるという結論が出る。

1920年:アメリカ全土で禁酒法が施行。

1923年:日本初の本格的なウイスキー蒸溜所として、京都郊外にサントリー山崎蒸溜所が開設。

1929年:国産第1号ウイスキーとなる「サントリーウイスキー白札」が発売。

MALT WHISKY PRODUCTION

DRINKING STYLE

ウイスキーの基本がわかったら、いざドリンキングタイム。蒸溜酒は飲み方一つで味わいが大きく変わるから、自分の好きなスタイルを見つけるのがいいだろう。指南役にはバーテンダーの浅倉淳さん。ウイスキーの代表的な飲み方とその魅力を教えてもらった。

STRAIGHT

「ウイスキーの風味をまさに“ストレート”に味わう飲み方。グラスの形状が変われば、味や香りの感じ方も大きく変わります。そのため飲む人の好みとウイスキーのタイプに合わせて、テイスティンググラス、ショットグラス、小さめのロックグラスなどをご用意。ストレートは注いだ瞬間から5分後、10分後と時間の経過に伴う味の変化を楽しむのが魅力です。また、アルコール度数が高いだけにチェイサーの存在も欠かせません。私は、日本人の舌に優しく違和感のない軟水を使うことが多いですね」

ウイスキー ストレート
ウイスキーとチェイサーを交互にどうぞ。

ON THE ROCKS

「表面積が小さく溶けにくい氷でウイスキーを冷やして飲むスタイルです。オン・ザ・ロックスはウイスキーの香り、甘さ、辛さだけでなく、飲み応え、アルコールのもつボディ感を楽しむ飲み方。アルコールの輪郭がはっきりし、ウイスキーの量感が増します。それだけにウイスキーの味を左右する氷の取り扱いには注意を払います。冷凍庫から出したばかりの氷の表面には庫内のホコリや臭いがついているので、少量の水をスプレーして霜を取り除くと同時に、氷を割れにくくするようにしています」

ウイスキー オン・ザ・ロックス
氷が溶けた瞬間に現れる、芳味の奥行きをお見逃しなく。

WHISKY AND SODA

「ソーダ割りは、炭酸によってアルコールの当たりが前面に出てくるので、ウイスキーとソーダの割合は1:2.5〜3が香りと味のバランスがよいと思います。特に1:3の場合は、炭酸によりウイスキーのもつフレッシュな柑橘系のフレーバーが引き立つんです。先に入れるのがウイスキーか炭酸水かでも風味や一口目のファーストインパクトが変わります。私は、氷の入ったストレートのタンブラーにウイスキーと炭酸水を30mlずつ入れて2、3回ステア。なじんだところに1:3の割合になるよう炭酸水を注ぎます」

ウイスキー ソーダ割り
炭酸の味わいを消さないよう、かき混ぜすぎにご注意を。

TWICE UP

「常温の水を同量加えることで、ウイスキーの持つ芳香を引き出します。アルコール度数が20〜23度になると水分子の水素結合が強くなり、水がアルコールを包んでいるような優しい、水割りに近い味わい、口当たりになっていきます。ウイスキーによってはミネラル分のある水を使うとエグ味が出ることがあるので、私は純水を使用。テイスティンググラスに入れたウイスキーに水を少量ずつ加えていき、ストレート→トワイスアップ→濃いめの水割りと、それぞれの香味の違いを感じる飲み方も試してほしいですね」

ウイスキー トワイスアップ
ブレンダーが試飲の際に用いる“プロ”の飲み方。

MIST

「グラスの外面に白く霧がつくからミスト。味わいも見た目も清涼感のある一杯です。つくり方にはいくつかあり、クラッシュドアイスをいっぱいに入れたオールドファッションド・グラスまたはロックグラスにウイスキーを注ぐ方法と、シェイカーでウイスキーとクラッシュドアイスをシェイクしてから入れる方法などがあります。適しているのは、個性の穏やかなウイスキー。柑橘類のピールを搾りかけると清涼感が増します。ストレートやロックに比べると、飲みやすいと感じる人が多いようですね」

ウイスキー ミスト
目と舌で味わう、ひんやり冷たい夏向きの一杯。

WHISKY AND WATER

「グラスも水も冷やしておくのがポイント。私は、少し口の広がったタンブラーに長方体の大きめの氷を2つ入れて冷やし、そこに約5℃の冷たい純水を75ml、次にウイスキー30mlを加えて10回ほど軽くステアします。ウイスキーと水の割合は1:2.5。アルコール度数約43度のウイスキーに、2.5倍の水を加えると約12度になります。この時、クラスター(原子、分子が集まってできる集合体)内のエタノールと水の分子数がほぼ同数となり、舌に感じるアルコールと水のバランスがとてもよくなります」

ウイスキー 水割り
水割りも化学反応⁉アルコール度数がポイントです。

WHISKY COCKTAIL

「ウイスキーベースのカクテルといえばマンハッタン。カクテルの女王と呼ばれる一杯です。私はライウイスキーとベルモット、ビターズを、氷で冷やしておいたミキシンググラスに入れて50回前後ステア。香りが立ったところをカクテルグラスに注ぎます。ウイスキーに厚みを持たせるため、ベルモットは奥行きのある甘味を持つタイプとスパイシーでコクのあるタイプの2種類を使用。ベルモットとの相性と、落ち着いた柔らかいニュアンスを伝えたいと考え、ピールはレモンではなくオレンジを使っています」

ウイスキーベースのカクテル
バーテンダーの個性が光るマンハッタンで乾杯!