THE BELLWOOD(渋谷)
モチーフは懐石料理。トラディショナルを現代風に解釈
メニューを開くと、先付、焼物、向付、御飯、甘味、とおよそ酒の分類とは思えないワードがずらり。懐石料理になぞらえたオリジナルカクテルが、20種類ほど用意されている。
「日本料理店には最初に梅酒を出してくれるところがありますよね。それは、酸っぱさが食欲を掻(か)き立ててくれるから。これをヒントに、都こんぶに着想を得た酸味のあるカクテルを“先付”の一つとして提供しています」と、オーナーバーテンダーの鈴木敦さん。
メインの「御飯」には、米を原料とする酒のカクテルが並ぶ。その一つに「バンブー+」が。「そもそもはバンブーという、一説には100年以上前に日本で生まれたとされるカクテルがあります。ここでは、当時はなかった桜のフレーバードワインを使ったり、ベースもシェリー酒ではなく米焼酎にしたり。歴史あるものを、今の見立てで作り直しているんです」。
今夏には同じく渋谷に新店舗をオープン予定。ビールのようにタップでカクテルを楽しむ、これまた現代風のスタイルだ。
BAR 新井建具店(月島)
年24回変化。オリジナルカクテルに表れる、季節の機微
店名の「建具」とは、開け閉めできる戸や襖などの間仕切りのこと。店主の新井健太さんの祖父母が長年商いとして扱ってきたものでもある。その屋号を継承したこの店にも、丁寧に設(しつら)えられた建具が。古風でモダンな雰囲気だけでなく、カクテルにも和の要素が十分。シグネチャーの「二十四節季」は季節の分け方の一つである“二十四節気”がモチーフになっている。
「例えば4月下旬頃は“穀雨”、穀物を育てる雨が降る時季です。水辺では葦(あし)が生え始める頃としても知られることから、葦を使ったレシピを考えました」。スローイングで空気を含ませ温度を上げることで香りを立たせ、雨が降った時の地面から立ち上る湿度を表現。
「バーテンダーとしてイギリスで働いていた時に、カクテルを通して日本の魅力を改めて感じるようになりました。その一つが季節の豊かさ。天候や植物と深く関連するこの世界を、ぜひ楽しんでいただきたいですね」。
FOLKLORE(日比谷)
和の文化や暮らしを織り交ぜる、ミクソロジーカクテル
入口には高さ1.5mほどの低い扉。さながら茶室のようだが、それもそのはず、設計は数寄屋建築を手がける設計士によるものだ。天井や棚などの木材は、300年ほど前に建てられた寺から譲り受けたもので、日比谷にいながら古寺巡りの趣さえ感じられる。この空間で味わえるのは、この国をイメージしたミクソロジースタイルのカクテル。
「フルーツやスパイスだけでなく、“日本の文化や歴史とお酒”を掛け合わせています」と、バーテンダーの佐藤由紀乃さん。出してくれたのは、「海」という名の海苔(のり)をテーマにした一杯。
「日本酒と海苔を漬け込んだウォッカのカクテルです。付け合わせの海苔はアイラウイスキーを一吹きしてから乾燥させています」。つまみながら飲めば磯の風味豊かな香りが一層感じられる。米由来の日本酒と海苔という、おにぎりを思わせる組み合わせ。日本では当たり前の食文化が確かに落とし込まれているのだ。
BAR 新宿ウイスキーサロン(新宿三丁目)
世界のウイスキーカクテルを和に。もちろんジャパンメイドで
ウイスキーはロックやストレートだけでなく、カクテルでも存分に楽しめる。「日本にはジャパニーズウイスキーの歴史とそれに対する敬意がある。シンプルに味わうことが多いのもリスペクトがあってこそ。一方で海外ではカクテルとしても親しまれています。このお酒が持つ、幅広い魅力を知ってほしくて」と、店主の静谷和典さん。
「マスター・オブ・ウイスキー」の資格を持つほか、100以上の蒸留所に足を運び、SNSでの発信も積極的。TikTokにYouTubeなど、フォロワーは延べ60万人超と、いわばウイスキーカクテル界の水先案内人だ。「世界でよく飲まれているポピュラーなカクテルに『オールドファッションド』があります。
ウイスキー、ビターズ、角砂糖で作るもので、シンプルゆえに作り手によって味のバリエーションもさまざま。ここでは、升に入れた『サロン・ド・ファッションド』に。炒った黒ゴマのシロップなどを前割りし、砂糖の代わりに金平糖を添えています」。