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なぜ浅草でサンバカーニバルが始まったのか

残暑厳しい8月の最終土曜日、1981年から開催されているのが『浅草サンバカーニバル』。今ではすっかり浅草名物になっている。しかし、なぜ古い寺社の残る町で、ブラジルのサンバカーニバルが始まったのだろうか。その起源を元浅草フランス座演芸場東洋館、現浅草演芸ホール会長、松倉久幸さんから聞くことができた。

Text: Katsumi Watanabe / Special thanks: Sanyutei Ahomaro

戦後復興の最中、
誰にでも開放されていたサンバのリズム。

「私の父で初代会長の松倉宇七が、戦前から浅草で映画館〈三友館〉の支配人をやっていました。戦後2年目になる1947年、近くに〈ロック座〉というストリップ劇場ができて、大人気になったんです。それを追う形で、父もストリップと喜劇が楽しめる 〈浅草フランス座〉を始めました。

終戦直後は、とにかくアメリカからいろいろな文化が日本に入ってきましてね。音楽もまたしかりで、ジャズやロカビリーなど、聴いたことのないような曲にシビれたものです。中でも人気だったのが、マンボやルンバといったラテン音楽。特にサンバは踊り子さんたちの間で大人気になりました」

昭和30年代〈浅草フランス座〉
昭和30年代の〈浅草フランス座〉。前列右から2番目が座長を務める伴淳三郎。サンバを愛した伴のアイデアから、ダンサーたちはサンバパレードで見られる羽根の付いた衣装を身に着けている。

ストリップといえば、スローでセクシーな「タブー」が定番で、サンバが人気とは少し意外だ。

「戦前の日本の踊りには型があって、勉強しなければできなかったけど、サンバは振り付けなどなく、とにかく全身でリズムを取ればいい。開放感があったんだ。それにあんな軽快なリズムなんて日本にはなかったから、みんな踊りたがったね」

また〈浅草フランス座〉には専属のバンドが在籍、彼らの存在もサンバの普及に一役買っていた。

「当時のバンドマンは、一度レコードを聴けば演奏できちゃうような、才能のあるヤツが多かった。うちは稽古期間なんてなかったから、リーダーは夜昼問わず新曲を探して、メンバーへ譜面を渡し、翌日には舞台で演奏していた。バンドは劇場が終わると、夜にはキャバレーに演奏しに行くからね、自然にサンバの人気は広がっていった」

浅草にこだまするサンバに耳を傾ける人の中に、喜劇役者・伴淳三郎の姿もあった。

浅草を席捲した
サンバのリズム。

浅草サンバカーニバルは伴淳の
「区長、サンバをおやりなさい」から生まれた。

サンバが浅草に定着してから30年後の1970年代後半。演芸場などで賑わっているハズの浅草には、暗い雰囲気が漂っていたという。浅草演芸ホール会長、松倉久幸さんは振り返る。

「64年の東京オリンピックが決まると、テレビが一般に普及し始めた。放送局はコメディ番組を作るため、浅草から喜劇役者を大量に引き抜いて、実演劇場からお客さんが遠のいた時期があった」

そんな状況を憂えた当時の台東区区長・内山榮一は、打開策を模索し、浅草演芸ホールを訪ねた。

「区長は浅草復興イベントを考えており、そのアイデアをもらうため、うちの舞台に出ていた伴淳三郎さんを訪ねてきました。伴さんは浅草のために快諾し“区長、サンバをおやりなさい”と助言した。それがサンバカーニバルの大本です」

伴は戦前からアメリカや南米でも舞台公演を行っており、その中でリオのサンバカーニバルを体験。戦後には舞台でもサンバを取り入れていた。

浅草サンバカーニバルパレードコンテスト
『第34回浅草サンバカーニバルパレードコンテスト』は、2015年も8月29日に開催決定。近年では50万人の人を集め、浅草一大行事の一つに。写真はパレードのちょうど中間にある雷門前にて。

「“女性はキラびやかな格好して、一晩中踊りっぱなし”とか、伴さんの体験談が面白くてね。役所の人も興味を持って、区長と職員でリオへ視察に行ったんですよ。私は留守番でしたが、すごく衝撃を受けて、帰国後すぐに準備に入りました。

当初反対もありましたが、台東区商店街連合会の協力、アサヒビール(現・アサヒ飲料)は資金とビールを提供してくれて(笑)。おかげで本場リオや、群馬県大泉に住むブラジル出身のダンサーを大勢呼ぶことができましたね」

伴淳三郎が先導に立ったこともあり、1年目から大成功。パレードだけにとどまらず浅草の経済効果にさえ影響を与えることに。サンバ恐るべし。

「パレードのコースになる雷門通りなんて、前は2階建ての家しかなかったのにマンションがにょきにょき建てられて。みんなサンバ見たさに買うんだよ。大袈裟じゃない、本当の話だよ。でも、伴さんは初年のすぐ後に亡くなられました。もっと一緒にサンバを見たかったですね」

日本に波及していった
サンバのリズム。