夜の喫茶店。
通りもまばらになった深夜0時過ぎ。暗がりにポッと明かりを灯すように喫茶〈ロッジ赤石〉はある。
76歳のマスター(先代)はいつもこのぐらいの時間にやってきて、カウンターに座り、馴染みの客と会話するのを楽しみにしている。深夜を過ぎても旨いカツ重が食べられる店として知られ、会社帰りのサラリーマンからお座敷を終えた芸者など、浅草らしくバラエティ豊かな面々が居並ぶ。
70種類を超えるメニューはマスターが近隣を食べ歩き、見よう見まねで作った。丑三つ時に近くなると入れ替わりでママが入る。夜勤明けのタクシー運転手たちを迎えるためだ。3時過ぎたら中央のテーブルは“タクシーさん”のための予約席。気がつくと店内はベストを着た年輩客で埋まる。
「食べたいのを言ってね」。毎日来てくれる運転手が飽きないようにとメニューは増えていった。
「安ちゃん、生姜焼き」「勝田さん、サンドイッチ」
はい、ご馳走さん。ガシャンと勢いよくゲーム台にアイスコーヒーのグラスを置いたのを咎め「ちょっと壊さないでよ。この間欠けたんだから」とママ。「なんだよ、うるせーな」。横から「お前がうるせーんだよ」とちゃちゃが入ると「あ、俺か(笑)」なんて。いつも通りの喫茶店。
空が白み始める頃、コーヒーの香りと共にのんびりと時間が過ぎていく。
浅草〈ロッジ赤石〉の
ベストナイン発表!
なぜ“ロッジ”なのか。なぜ1日19時間も営業(平日)なのか。なぜ、料理メニューの数が80種以上もあるのか。疑問は尽きないが、とにかく〈ロッジ赤石〉の愛されっぷりは、往時の巨人か現在の広島か、といった感アリ。
昭和48年に創業。長野出身の先代が、信州・赤石岳にちなんで店名をつけた。現在の店主で2代目にあたる小沢康純さんによると、当時は朝6時までやっていたというが、それというのも浅草のこの界隈は昔ながらの「花街」で、深夜まで賑わう店が数多くあるから。出前やテイクアウトが可能なのも、どうやらその名残だ。
“喫茶店”ではあるものの、料理の種類の豊富さと味の良さが圧倒的で、「お茶だけ注文するお客さんは少ないよね」と小沢さん。
朝から日中にかけてはご近所さんがのんびりと食事を楽しみ、深夜は仕事終わりの人々が空腹を満たし、明け方にはタクシーの運転手さんが仕事の合間に一服……と、時間帯により客層や雰囲気は異なるが、確かに何かを食べている人の実に多いこと!
「毎日仕込んでも仕込んでも足りない」と苦笑しつつ「品数も手数も減らせない」という小沢さんの言葉に、プロの矜持がみなぎる。“喫茶店界の鉄人・衣笠”とお呼びしたい。トドメは「こんな店が近所にあったらいいよね〜」との一言。御意!