Drink

越境を続け、まだ見ぬ風景を作り出すワインの注ぎ手。外苑前〈アンディ〉大越基裕

長い旅を経て、飲み手の前に届いたワイン。でもその一本はいつ、どう飲む?サービス一つで味は一変する。だからこそ、信じて委ねてみましょう。注ぐ人で味が変わる、はやっぱり本当です。

photo: Sachie Abiko / text: Kei Sasaki

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大きく越境を続けて、まだ見ぬ新しい風景を作り出す

〈銀座レカン〉のシェフソムリエ就任時、店側に申し出て変えてもらったことが2つ。一つはセラーの温度帯を細分化すること。もう一つが、ペアリングの導入。トップソムリエの一人が、銀座の真ん中のクラシックフレンチで、ボルドーの銘酒と一緒に、ティエリ・ピュズラやフィリップ・ボールナールらのワインをグラスでサービスし始める。2009年のことだ。

町場のカジュアル店ではなく、ガストロノミーから“土壌”を作った人。当時、ソムリエ業界では敬遠されがちだったワインを色眼鏡で見なかったのは、フランスで学んだ経験が大きい。ブルゴーニュ、アルザスを中心に多くの生産者を訪ね、話を聞いた。じきに、この種のワインにしか出せない味があることに気づく。

「本質は、どう造ったかではなく、“どこで造られた”かにある。野生酵母を用い、人間の関与を最小限にしたワインも、土地の風味を滋味深く表現しています」

サステイナビリティだとか人間性だとか、時に大義やロマンを盛られがちな世界。その重要性や意味するところはもちろん理解したうえで、彼はいつだって冷静かつロジカル。立ち位置も明確だ。

左/ボージョレの自然派の先駆、ジャン・フォワヤールのモルゴン。右/オーストラリアの生産者、ヤウマ。
左/ボージョレの自然派の先駆、ジャン・フォワヤールのモルゴン。「“クリーンなナチュラル”を求める自分が、最も信頼する造り手の一人。フランスに住んでいた頃、何度も通った」。右/注目産地、オーストラリアの生産者、ヤウマ。「年々軽やかになり、透明感を増していく。ジュースのようで、のびやかな旨味は、彼らにしか表現できない」

「僕は常に味と、料理との相性を見てワインと向き合っている」

実際、ナチュラルだからこそ寄り添える味がある、と話す。繊細な和食、生やレアに火を入れた魚。より軽やかで繊細な味へというガストロノミーの流れも見据えていた。

2013年に独立。ペアリングの監修を手がけた〈レフェルヴェソンス〉は、後に続くイノベーティブな料理とワイン提案の型を作り、自身で経営する〈アンディ〉では「モダンアジアンとワイン」というコンセプトを打ち出す。2021年にはバーテンダーとの協働で「ワインとカクテル」の店〈スワァル〉を開くなど、さらなる可能性を示し続けている。

十余年前に、たった一人で違う畑にまいた種が大きな花を咲かせ、野に交わり、山へと広がる。今我々が見ているのは、そんな景色だ。

東京/外苑前〈Ăn Đi〉大越基裕さん

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