ネタ以上にじっくり、エッセイ以上に深く
前作のエッセイ集に引き続きテンポのいい文章の端々に見えるのは、彼女の人を見つめる眼差しの鋭さと温かさだ。小説に初めて取り組むに当たって、より自分をさらけ出す作業が必要になったと本人は振り返る。
「小説では必要に応じて、普段は話題にも上らない恋愛や微妙な感情の動きまで登場人物に乗せる必要が出てきます。もちろん100%自分を投影しているわけではないにしろ、要素は確実に自分の中から出ているもの。自分のことをそのまま書くエッセイ以上に、自らの本質的な部分や内面をさらけ出す勇気が求められました」
収録されるのは6作の短編。それぞれ女友達、親戚、恋人、顔見知りなど、さまざまな関係性の2人に焦点が当てられている。ここで特徴的なのは、登場人物が皆自立的であること。寄り添いながらも、互いに寄りかからない一定の距離感が、会話や描写の端々に表れている。
「私自身、人付き合いのみならず、すべてのものに対して”依存しないでいよう”という気持ちがあって。意識的ではありませんでしたが、その姿勢が文章に出ているのかもしれませんね」
長らくお笑いのネタ台本を書いてきた加納さんは、小説を書く面白さをどう感じているか。
「一番違うのは、登場人物のことを短期決戦で愛してもらわなくてもいいこと。いかに心を掴むかスピード勝負のコントと違い、じっくり時間をかけて人物を描写できるし、やりたいことをすべて入れる余裕がある。そこは贅沢ですね」
時にシニカルな目線を加えながら飄々と人々を描写してきた彼女だが、次は「一生懸命な人や熱量の高い人も描いてみたい」とのこと。新たな物語が花開くのを心待ちにしたい。