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子供がいなくなった学校に、大人たちが帰ってきた。〈吉本興業東京オフィス〉

ブルータス廃校再利用選定委員会の第1回ミーティングが旧四谷第五小学校、現・吉本興業東京オフィスで開催された。参加者は建築家の藤原徹平、トランジットジェネラルオフィスの中村貞裕、そして伝統技術ディレクターの立川裕大。それぞれの分野で地方創生に関わる3氏は、廃校の向こうに大きな可能性を見出しているようだ。

初出:BRUTUS No.875みんなで集まる場所のつくり方。居住空間学 再生編』(2018年8月1日発売)

photo: Yasuyuki Takaki / edit: Kaz Yuzawa / assist: Yuiko Sugiyama

よみがえる少年の記憶、新しい伝統が始まる予感

藤原徹平

今日、お邪魔している吉本興業さんの東京オフィス、生産工場みたいな感じがすごくいいですね。単なるオフィスではなく何かを創造する場になっていて、学校というもともとのコンテンツをうまく変換している印象がある。それに間仕切りを外したり、よく考えて再利用されていますよ。

立川裕大

たしかに教室然としていたら、閉塞感とは言わないけれど、ちょっとクローズドな印象になってしまうかもしれない。

藤原

そうなんです。日本の教育制度は効率を重視してきたので、それが空間化してしまった部分がある。学校という空間の構造自体はシステマティックだから、そこで単純作業的なことをやってしまうと良さが活きない。逆にこうやって風通しを良くして、そこでクリエイティブな作業をやるととても活きるんです。

中村貞裕

僕は元小学校という、この「元」というのが気に入っているんです。学校にはたくさんネタがあるじゃないですか。今日も「社長室は元理科室です」って説明されると、お笑いの人体実験でもしてるのかなとか、想像が広がる。そういうところがすごく良くて、この「元」を活かさないと、せっかく学校を再利用する意味がない気がします。

立川

僕の仲間にブナコという器メーカーがあるんですが、青森の西目屋(にしめや)村の廃校を工場とカフェとワークショップスペースにしていて、そこでは「学び」が一つのテーマになっているんです。ブナコの匠に教わりながら自分で作るワークショップが大人気で、それは小学校の図工の時間が延長したような感覚なわけです。

中村

「学び」はアリですよね。実は僕には、学校を再利用するならどうしてもやりたいことが一つあって。それは保健室を仮眠室にすること。小学生の頃ってホントに体調が悪くてもサボりでも、保健室のベッドで横になるのってちょっと後ろめたかったじゃないですか。それを堂々と大の字になって眠れるっていいなぁと(笑)。

立川

アハハ、子供の頃の敵を取るわけですか、それは面白い。

中村

僕は今、シェアオフィスを展開していて、その付加価値としてシェア保養所を作れないかなと考えているんです。それを元学校で作れたら、クリエイティブ層にもフックになるんじゃないかと。

藤原

シェア保養所というアイデアはいいな。現代の日本社会にフィットしてる感じがします。やっぱり学校って、個人で何とかできる大きさじゃない。そうしたときに、新しいグループでシェアをするような形はアリだと思う。

元学校・地域性・建築特性、廃校はネタの宝庫です

中村

ところで今、廃校ってどういう状態なんですか?

藤原

自治体によってまちまちみたいですが、基本は鍵をかけてそのままにする場合が多い。

中村

そうこうするうちに、窓が割れたりして。

藤原

そして野良猫が入り込む。

中村

なるほどぉ。じゃあ早くしないといけないじゃないですか。もっとやるべきことを話さないと。

立川

そうだね。伝統技術ディレクターとして言えば、やはり地域のアイデンティティをどう活かすかをきちんと考えてほしい。どこかで見たような再利用というのは見る方の心が萎えるし、地域にも定着しないと思う。

中村

僕はしつこいようですけど「元学校」という部分を大切にしてほしい。そのためにはまず、学校って何だろうと考えることじゃないかと。あとは小学校の実体験で得たものが、どこかに片鱗として表れるとステキだと思います。

立川

やっぱり保健室=仮眠室構想ですか(笑)。

中村

アハハ、もちろんですよ。あとハード部分は極力残したいですね。ハードをうまく活かしたコンバージョンをしたい。「元学校」をコンバージョンするのは、間違いなく楽しいと思うなぁ。

藤原

ぜひやってくださいよ。

中村

そういう藤原さんは?

藤原

建築的な視点で言うと、外かな。学校建築は内と外を行き来しやすいように造られているんです。廊下が広くて昇降口がオープンで、休み時間になったら子供たちが我先に校庭に飛び出せる構造。だから内に籠(こ)もって何かをするんじゃなくて、外に向かう意識のあるコンテンツが合うんです。

立川

なるほど、構造的な話を伺うとよくわかります。外に向かって飛び出す感じ、ポジティブでいいじゃないですか。

藤原

廃校をどう使っていくか、その方向性が見えたら、その向こうには未来の日本社会の姿さえ見えてくるような気がします。

建築家・藤原徹平、トランジット・中村貞裕、伝統技術ディレクター・立川裕大
左から/立川裕大、中村貞裕、藤原徹平。