博物館のような、モランディの絵のような。
「今ある本が2万冊。来月運び込む分が3万冊」図書館でも学校でもなく木造2階建て住居の話である。緑の山を背に立つその家を訪ねたら、嘘みたいな量の本が収まっていた。美術ライターの橋本麻里さんが文筆家の山本貴光さんと暮らすのは、その名も〈森の図書館〉。
「ハシモトが館長、ヤマモトが司書長。毎日のように本を買い、読んで書いて本棚を見ながら考えることが24時間続く」2人の新居だ。
都内の自宅と仕事場と書庫を一つにして、生まれ育った鎌倉界隈に拠点を持とう。そう決めたのは2年前。建築家の三井嶺さんと場所を探し、逗子に好みの土地を見つけたところで設計が始まった。
最大の課題はただごとではない蔵書の収納だったが、そこへ舞い込んだのが九州大学の家具レスキュー計画。
キャンパス移転で行き先を失った什器を在野保存するという願ってもない話である。大正時代に西洋教育への憧れとともに作られた重厚な書架群は、「当時は一人で引きこもろうと、ロマネスク修道院の図書室みたいな家を思い描いてました」というイメージにもぴったり。
万々歳で貸与を受け、家の随所に配置した。圧巻はリビング代わりの閲覧室。本が日焼けしないよう開口部を最小限に抑えた空間には、大屋根の隙間や高窓から静かな光が降り注ぐ。西洋風の薄緑で塗った壁とも相まって博物学者の書斎のような雰囲気だ。
居室のみならず階段脇の壁まで書棚で埋め尽くされているのは、「最初は修道院のつもりだったのが、途中で同居人ができ、本も2倍になっちゃった」から。もはや本に支えられているふうにも見える建物を、自分たちと似ているかも、とちょっと嬉しそうに言う。
「壁の内側に本棚という被膜があって、そのレイヤーが私たちを外界からゆるやかに守り、あらゆる時空間へと導いてくれる。棚を眺めながら歩き回るだけで脳内が触発されるし、背表紙の一つ一つが“どこでもドア”のように過去や未来や遠くの国へビュンと連れていってくれる。
ここは本が入って完成する家。親しみを感じるし、とても居心地がいいんです」