それはベコベコしたアルミでできた鍋みたいに。
この鍋は、クスクシエっていって、クスクスを作るための鍋。こっちは、ポルトガルのフリーマーケットで買いました。料理上手だったおばあさんが大事に使ってきたそうで、もう使う人がいないからっておじいさんが。
売っちゃっていいのかなと思ったけど、おいしいスープをたくさん作ってくれた鍋なんだっていうのが、なんかいいなと思って。
それはベコベコしたアルミでできた、少し丸みを帯びた鍋だ。ほかにもたくさん。ツレヅレハナコさんは、新築した家の2階に「自慢の鍋を並べる棚」を特設した。世界を旅した道中で、縁あって買い求めた鍋の数々が並ぶ。どれも、世界のどこかで誰かのお腹をいっぱいに、幸せにしてきた鍋ばかり。
家を建てるにあたり、欲しかったものの一つが、この鍋自慢のできる棚だ。
「設計の途中で何度も、この棚はどこに作れるのか聞いちゃって。そのたびに、それより前に決めなきゃいけないことがいっぱいある。いまじゃないと言われてました」
そこに住みたいと思うほど、ツレヅレさんには理想とする台所があった。ガスコンロの脇に、日差しの入る窓があるクローズドキッチン。日がな一日好きな料理を作り、パソコンを持ち込んで仕事もして、晩酌もできる場所。シンクや調理台の仕上げにも、コレという好みの質感があって、そのいちいちを建築家の坪谷和彦さんに聞いてもらった。
家を建てたかったのではない。自分にぴったりした台所をつくりたくて、家ごと建ててしまった。
メインの台所とリビングは2階に。1階に、書斎、寝室、浴室、そしてイベント用にと、カウンターのある台所をもう一つ。
ちなみに鍋自慢の棚は、結局、家のほぼ全体が完成してから、ホームセンターで選んだ板で坪谷さんが取り付けたという、画竜点睛なエピソードもふるっている。
「想像以上に建てて良かった」というこの家も、これから、幸せな料理をいっぱい作ったおばあさんの、アルミの鍋みたいになる予定。