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理想の台所を作りたくて家ごと建てた。ツレヅレハナコの居住空間

今日は一日家にいる。そんな日は、心がふさぐ一日ではなく、心が解放される一日でありたい。窓からの景色にホッとしたり、いつものダイニングテーブルで一息ついたり。そこに好きな本や音楽があれば最高。平凡で穏やかな日々を称えたい今だからこそ、家のことをもっともっと好きになって暮らしたい。

Photo: Tetsuya Ito / Text: Yuka Sano

それはベコベコしたアルミでできた鍋みたいに。

この鍋は、クスクシエっていって、クスクスを作るための鍋。こっちは、ポルトガルのフリーマーケットで買いました。料理上手だったおばあさんが大事に使ってきたそうで、もう使う人がいないからっておじいさんが。

売っちゃっていいのかなと思ったけど、おいしいスープをたくさん作ってくれた鍋なんだっていうのが、なんかいいなと思って。

それはベコベコしたアルミでできた、少し丸みを帯びた鍋だ。ほかにもたくさん。ツレヅレハナコさんは、新築した家の2階に「自慢の鍋を並べる棚」を特設した。世界を旅した道中で、縁あって買い求めた鍋の数々が並ぶ。どれも、世界のどこかで誰かのお腹をいっぱいに、幸せにしてきた鍋ばかり。

家を建てるにあたり、欲しかったものの一つが、この鍋自慢のできる棚だ。

「設計の途中で何度も、この棚はどこに作れるのか聞いちゃって。そのたびに、それより前に決めなきゃいけないことがいっぱいある。いまじゃないと言われてました」

そこに住みたいと思うほど、ツレヅレさんには理想とする台所があった。ガスコンロの脇に、日差しの入る窓があるクローズドキッチン。日がな一日好きな料理を作り、パソコンを持ち込んで仕事もして、晩酌もできる場所。シンクや調理台の仕上げにも、コレという好みの質感があって、そのいちいちを建築家の坪谷和彦さんに聞いてもらった。

家を建てたかったのではない。自分にぴったりした台所をつくりたくて、家ごと建ててしまった。
メインの台所とリビングは2階に。1階に、書斎、寝室、浴室、そしてイベント用にと、カウンターのある台所をもう一つ。

ちなみに鍋自慢の棚は、結局、家のほぼ全体が完成してから、ホームセンターで選んだ板で坪谷さんが取り付けたという、画竜点睛なエピソードもふるっている。

「想像以上に建てて良かった」というこの家も、これから、幸せな料理をいっぱい作ったおばあさんの、アルミの鍋みたいになる予定。